Last Updated on 2023年7月19日 by カメさん
こんにちは!看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は15分程度で読めます。
今回は論文の概要・書き方・投稿方法を徹底解説します。これを読めば、論文に関することは大抵わかるよ。
今回は論文の書き方について解説するよ。
看護研究の集大成は、研究結果を論文にまとめて公表することです。研究活動は、昔からある膨大な知識体系の中にあなたの研究結果を積み上げる作業です。研究結果を積み上げるためには、論文として研究成果を残す必要があります。
自分の研究結果を多くの人に届けて看護学の発展に貢献するためにも、論文を完成させましょう。
研究を発表する方法には「学会発表」と「論文発表」の2種類がある
まずは、研究成果を発表する選択肢を紹介します。研究成果を発表する種類は主に下記の2つです。
今回は上記のうち「論文発表」について詳しく解説します。
学会発表についても下記で簡単に解説するから参照してね。
学会発表とは?
学会発表とは、その名の通り学会で発表することです。学会とは、研究成果を発表する場です。また、他の研究者とディスカッションすることもできます。
学会の発表形式には、「口頭発表」と「ポスター発表」の2種類があります。
学会発表については【学会発表とは?】看護師必見「研究結果を学会で発表しよう!」で詳しく解説しているので良かったら参照してください。
「学会」とは学術会議のこと
学術会議とは、研究成果の発表や、特定の研究分野に関する情報交換、議論を行うことを目的として行われる会議のことです。
よく「学会」 と呼ばれているのが、学術会議のことです。
外国語を使用した学術会議国際会議と呼ばれるよ
看護系の学術学会は多数あり、日本看護系学会協議会に所属している学会は下記の49学会があります。
参考元:https://www.jana-office.com/file/newsletter_230325_30.pdf
上記の学会では学会誌、学術論文誌などでも研究成果を発表しています。論文を投稿する際の参考にしてください。
論文発表とは?
それでは、今回の本題に入っていきます。論文発表とは、論文を記載して学術雑誌等に掲載してもらうことです。
そもそも論文とは何かというと、「ある研究テーマに沿った仮説を検証した研究結果を報告した文章」のことです。英語ではpaperやthesisと言ったりします。
論文は、個人の考えだけを書いた文章ではなく、研究の結果を論理的にまとめたものです。研究では、研究テーマの仮説を設定し、仮説の予測を立て、実験により検証します。論文では、その内容を論理的にまとめて記載します。
研究をするための論理的思考に興味のある方は【帰納法・演繹法・仮説演繹法とは?】質的・量的研究との関係も解説「論理的思考を身に着けよう!」を参照してください。
自分の考えを主張しただけの文章は論文とは言えないよ。
論文は、研究テーマに関連する学術雑誌等に投稿し、他の研究者の査読を受けた後に掲載されます。雑誌に掲載された論文には文献的価値があり、看護学の発展に寄与することができます。もちろん研究者として個人の実績にもなります。
論文には種類がある
論文には下記の種類があります。
それぞれ詳しく解説していきます。
原著論文
原著論文とは、著者のオリジナルな論文のことです。論文と言えば一般的に原著論文を指します。
以下に原著論文の特徴をまとめました。
査読(peer-review)とは?
査読とは、投稿された論文を専門家が審査することです。査読により、あなたの論文が出版の価値があるかどうかを判断します。詳しくは下記にも記載しているので参照してください。
基本的に、2名以上の専門家が審査を行います。査読は雑誌毎の規約に則り厳格に行われます。査読の結果、掲載が断られることは良くあります。また、複数回の修正を求められることもあります。そのような厳しい審査システムを乗り越えた原著論文には高い信頼性があります。有名雑誌に掲載された原著論文なら、なおのことです。
原著論文が採択されたのであれば、該当分野の専門家にあなたの研究成果の独自性や新奇性、完成度などが認められたと言えます。
自分の研究に引用する論文はできる限り原著論文にしよう。
短報、レター、速報
短報、レター、速報とは、オリジナルな研究成果を短くまとめたものです。速報的な意味合いが強いので、査読期間も原著論文より短く設定されています。
以下に短報、レター、速報の特徴をまとめました。
短報はとにかく即効性が重視です。新たな発見をいち早く世界に広めたい時に使われます。また、短報公表後の原著論文があるか探すのも忘れないようにしましょう。
総説
総説とは、特定の分野やテーマに関する先行研究を集めて、体系的にまとめたものです。そのため、その研究分野やテーマの概観や今後の展望を説明する目的があります。
以下に総説の特徴をまとめました。
特定の分野についての基礎的な知識、現在までに明らかになっていること、今後の展望などが一目で分かります。そのため新しい研究を始める時には、総説を読むことをおすすめします。
総説を読むと、その分野の知識が一気に深まるよ
症例報告
症例報告とは、1例〜複数例の症例について病態や治療内容、看護実践内容等をまとめたものです。
以下に症例報告の特徴をまとめました。
症例報告はエビデンスレベルが低いため推奨しない人もいますが、個人的には看護師こそ症例報告を行うべきだと思います。
看護は一回性が大きいと言われ、そもそも一般化の難しい学問です。そのため、1つの事例を丁寧に振り返ることで知見を深めていく必要があると考えます。
また看護ケアは実践知に基づいて暗黙的に行われていることが多いため、実際に効果があったケア等を紹介することで、他施設でも活用できる知識とすることができます。
会議録
会議録とは、学術会議(いわゆる学会)の口頭発表や講演などの記録をまとめたものです。学会発表の際の抄録をまとめたものがほとんどです。
以下に会議録の特徴をまとめました。
基本的に議録は信頼性の低い文献です(論文をまとめた会議録など、信頼性の高い会議録もありますが)。そのため会議録は、参加できなかった学会の概要を把握したり、興味ある分野の研究の動向を知るために活用しましょう。
学位論文
学位論文とは、学士号や修士号、博士号を取るために行なった研究をまとめたものです。基本的には博士論文が学位論文と呼ばれます。
下記に学位論文の特徴をまとめました。
研究者が行ってきた研究の総括であり、膨大な文献レビュー内容も記載されていることが多いので「総説」的な活用もできます。
学位論文を見つけたら、その論文を原著論文として掲載したものも探してみよう
参考:看護科学学会誌の投稿規定に記載の「論文の種類」
看護科学学会誌の投稿規定には、論文の種類として以下が記載されています。
【原著論文】
看護学の知識の発展に貢献する研究論文であり,得られた知見と実践への示唆が論理的に述べられているもの.質が高い症例報告(ケース・スタディ)・事例研究も含む.原著論文の文字数は本文12,000字以内とする(抄録,引用文献,図表は含まない).
【総説】
看護学に関わる特定のテーマについて多面的に内外の知見を集め,また文献等をレビューして,当該テーマについて総合的に学問的状況を概説し,考察したもの.系統的レビューだけでなく、スコーピングレビュー、概念分析を含む.総説の文字数は本文12,000字以内とする(抄録,引用文献,図表は含まない).
【資料】
看護学の発展において,臨床や教育現場に何らかの示唆をもたらし,資料的価値があるもの.例えば,実践報告,症例報告(ケース・スタディ)・事例研究,各種の活動紹介,看護学に係る問題や話題のうち今後の方向性を指し示すような著述や提言など.資料の文字数は原則として本文12,000字以内とする(抄録,引用文献,図表は含まない).
【その他】
掲載論文への意見(Letter to the editor),委員会報告,理事会・編集委員会からの依頼原稿など.その他においては文字数の制限は設けない.
引用:日本看護科学学会誌投稿規定
日本看護科学学会誌は日本の看護系雑誌だとメジャーだよ
論文を書いてみよう!:論文の基本構成
ここからは実際に論文を書く際に、記載するべき内容について解説します。
研究論文は「Title(タイトル)・Abstract(要約)+ IMRAD(イムラッド)方式 + Conclusion(結論)」で構成されることが一般的です。
IMRAD(イムラッド)方式とは?
IMRAD(イムラッド)方式とは自然科学系論文の基本構成で下記の頭文字を取ったものです。
IMRADに加えてConclusion(結論)を記載することが多いよ。
医療系でも1978年に医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)が、この論文構成の使用を決定して以来、医療系論文における基本構成になっています。
IMRAD方式を踏まえて、実際に論文で記載すべき事項を下記にまとめました。これが一般的な論文の基本構成です。
上記の項目について記載することで、形式の整った論文を記載することができます。上記は一般的な論文の基本構成のため、症例報告の際に記載すべき項目についてはこちらをご参照ください。
それぞれ詳しく解説するよ。
Title[タイトル]記載時のポイント
Title[タイトル]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
Titleを記載する際の一番のポイントは、一目で何について書いた論文かが分かるように意識することです。読み手の気持ちを考えて論文のタイトルを検討しましょう。
タイトルは論文の顔になる部分だよ。たくさんの人に興味を持ってもらえるように熟考しよう。
TitleとAbstractが悪いと、その先を読んでもらえない
論文を雑誌に掲載するためには査読を通過する必要があります。雑誌には多くの論文が投稿されるため、査読者はまず、TitleとAbstractを読んで論文の良し悪しを判断します。つまり、TitleとAbstractで査読者の興味を惹くことができなければ査読を通過することができず雑誌に掲載されることもありません。
Title・Abstractも気を抜かずに最後まで吟味しよう。
Abstract[要約・抄録]記載時のポイント
Abstract[要約・抄録]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
Abstractには構造化したもの(構造化抄録)と、構造化していないもの(非構造化抄録)があります。構造化したものとは、IMRAD(イムラッド)方式等の項目に沿って記載するもので、構造化抄録が一般的です。
構造化抄録を記載する際の構成には下記のパターン等があります。
抄録の構成は投稿先の雑誌によっても異なるので、必ず事前に確認してね。ちなみに、BMJとJAMAはメジャーな医学系雑誌のことだよ。看護系だとIMRAD方式や標準型で記載されていることが多いよ。
AbstractはTitleと合わせて、論文の顔になります。前述の通り、TitleとAbstractの出来が悪いと、査読者はもちろん、たとえ掲載されたとしても他の研究者に本文を読んでもらえないことになるので、入念に検討しましょう。
AbstractとTitleは必ず、本文記載後に考える
AbstractとTitleは下記の図のタイミングで記載するようにしましょう。このタイミングで記載することで、本文の内容と齟齬が出ることを防ぐことができます。論文を記載する順番についての詳細は下記に記載していますので参照してください。
Introduction[緒言]記載時のポイント
Introduction[緒言]には、Background[研究背景]・Objectives[研究目的]を記載します。
Introduction[緒言]は下記のような順番で記載されると、論旨が整い読みやすいとされています。
それぞれを記載する際のポイントを下記にまとめました。
Background[研究背景]記載時のポイント
Background[研究背景]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
Backgroundにおいて研究を行う意義や価値を分かりやすく記載するポイントは、下記の図のように抽象度が大きな内容から、抽象度が小さな(具体的な)内容へと書き進めることです。
社会的な課題を記載する際は、最新の情報を記載しましょう。例えば、Covid19の感染拡大などです。新しい情報を書くことで、興味を持ってもらいやすくなります。また、明らかになっていないことを強調することで、新奇性をアピールすることができます。
Backgroundを記載する一番の目的は、何が明らかになっていて、何が明らかになっていないかを明示することだね。これが書ければ、自然と今回の研究の意義が明確になるよ。
Backgroundの「書きすぎ」に注意
自分が勉強したことを、これでもかとBackgroundに記載する人がいます。しかし、Backgroundで記載すべき内容は、臨床疑問や研究疑問、文献レビューの結果など、今回の研究の現状です。そのため、研究の現状に直接関係のない記載は省略し、考察に回しましょう。
Backgroundで書きすぎないようにね。研究背景の中に、考察に書くような自分の主張を書いている人がいるから気を付けてね。
分かりやすいBackgroundは「One paragraph, one topic」
「One paragraph, one topic」とは、1つの段落に論文の鍵となる1文を記載するという原則です。これは主に英語論文を記載する際のポイントですが、この考え方は日本語論文を書く際にも活用できます。各段落を、「鍵になる1文」と「その1文の説明」という構成にすることで、論理的で分かりやすい文章にすることができます。
例えば、1段落目が研究の動機、2段落目が先行研究で明らかになっていること、3段落目が先行研究で明らかになっていないこと であれば、それぞれの段落に鍵となる1文を挿入します。基本的には、段落の最初に鍵となる1文を挿入します。
それぞれの段落の鍵になる1文だけ読めば、Backgroundが理解できるような構成が理想だね。
Objectives[研究目的]記載時のポイント
Objectives[研究目的]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
分かりやすい研究目的は、読者に今回の研究の「入り口と出口」を明示することができます。何を明らかにしたいから、どのような研究を行うのかを簡潔に記載するようにしましょう。
チェックタブ
具体的なObjectivesを記載する際は「PICO/PECO」を活用する
PICO/PECOとは、研究疑問を構造化する方法です。どんな患者(Patient)に、どんな介入や曝露があると(Intervention・Exposure)、何と比較して(Comparison)、どんな結果になるのか(Outcome)の頭文字を取ったものです。
基本的には、Backgroundで臨床疑問について文献レビューを行い、そこで明らかになったことを踏まえて、Objectivesで研究疑問を特定します。
PICO/PECOについて詳しく知りたい方は【PI(E)COとは?】看護師必読「研究疑問を整理しよう!PI(E)COは論文を読む時にも使えるよ」を参照してください。
概念枠組みの記載も検討
概念の関連性を明示した方が分かりやすい研究モデルかどうかを検討しましょう。もし概念の繋がりが難しい研究なのであれば、研究目的と合わせて概念枠組みを記載します。
概念枠組みとは、「研究の前提となる概念の関連性を示した図」のことです。概念枠組みを示すことで、今回の研究において何を分析するのかも明示することが出来ます。
概念枠組みの例を下記に示します。
Methods[方法]記載時のポイント
Methods[方法]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
研究方法には、研究結果を生み出すために使用した手段や道具を記載します。研究方法を具体的に記載することで、研究の信頼性が高まります。下記に記載の再現性を考慮しながら、具体的に丁寧に記載するようにしましょう。
とにかく統計手法については具体的に記載しよう。「他の研究者が同じデータを使用して、論文に記載してある統計手法を用いれば同じ結果が出る」ことを意識して記載しよう。
Methodsの記載では、とにかく再現性・反証可能性が重要
再現性とは、あなたの研究と同じデータと手法を使って、他の人が実験を行えば、あなたの研究と一致した結果が得られることです。
研究に使用した機器やソフトウェア、環境条件、データ収集方法を具体的に記載しましょう。誰もがあなたの研究を追試験できるほど詳しく記載することで再現性が上がり、研究の妥当性が向上します。
ちなみに反証可能性とは、他の研究者が再検証できる度合いのことだよ。
CONSORT声明、STROBE声明とは?
- CONSORT (Consolidated Standards of Reporting Trials)声明とは、介入試験の報告において記載すべき項目のチェックリストです。参加者の適格条件やランダム化の方法などの基準があります。
- STROBE(STrengthening the Reporting of OBservational studies in Epidemiology)声明とは、観察研究の報告において記載すべき項目のチェックリストです。参加者の選定方法や変数、統計解析の方法などの基準があります。
対象者の記載を具体的に
対象者の記載は軽視されがちですが、再現性を高める上で、どのような対象に研究を行ったかを明記することは重要です。
対象者の適格基準と除外基準を明記し、なぜそのような基準を設けたかの根拠を記載しましょう。また、対象者のサンプリング(対象者の選定)方法についても明記する必要があり、連続(consecutive)サンプリング(適格基準を満たす全ての対象)なのか、convenientサンプリング(設定した人数を満たせるようにサンプリングする)なのかを記載する必要があります。
さらに、適格基準や除外基準を基に、どのようにサンプリングをしたかを図にすることも推奨されています。下記のような対象選定のフローの記載も検討しましょう。
Results[結果]記載時のポイント
Results[結果]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
Results は、研究により得られたデータを、いかに分かりやすく読者に伝えるかが肝になります。図表を効果的に活用しながら、研究目的・研究方法に沿ったデータを提示しましょう。
結果は簡潔に記載することが重要ですが、結果が短く、考察ばかりが長くなるような構成にならないように注意しましょう。結果を示すことが、論文においてはもっとも大切となります。
Methodsに沿ってResultsを記載することで、論理的にも一貫性のある論文になるし、何より読みやすいよ。
CONSORT声明とSTROBE声明におけるResults記載時のポイント
CONSORT声明とSTROBE声明の詳細は前述の解説を参照してください。
- CONSORT声明におけるResultsのポイント(介入研究)
- STROBE声明におけるResultsのポイント(観察研究)
記述統計・推測統計とは?
- 記述統計とは、データの特徴や性質を把握する方法です。記述統計では、データの平均や分散、標準偏差などを求めます。そのため、表やグラフなどでも表現することができます。
- 推測統計とは、現在収集したデータ(標本)から、全体の母集団を推測する方法です。推測統計を行う際に、○○検定などの統計手法を用います。
Discussion[考察]記載時のポイント
Discussion[考察]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
以下が考察を記載する一般的な流れです。参考にしてください。
考察は先行研究を交えて議論することが重要ですが、先行研究の紹介となってしまうことが多々あります。あくまで研究目的を達成できた研究結果であるかどうかや、今後の研究への方向性を示すために先行研究を活用しましょう。
また、Discussionにおいても簡潔明瞭が求められます。研究結果以上のことをDiscussionで壮大に書いてしまわないように注意しましょう。
あくまで研究結果についてのDiscussionだからね。研究分野に関する大きなことはIntroduction[緒言]で書いておこう。
考察に必ず記載すべき項目は「鍵となる結果」「解釈」「限界」「一般化可能性」の4つ
- 「鍵となる結果」では、研究目的を解決するための研究結果を簡潔に記載する。
- 「解釈」では、今回の研究結果が先行研究と一致するのか、それとも一致しないのかを検討する。過去の結果と一致しない場合は、一致しない理由を分析する。また、今回の研究結果が実際の臨床現場にどのように活用することができるのかを検討する。さらに、今回の研究で明らかにできていないことを分析し、将来の研究への方向性を示す。
- 「限界」では、今回の研究で調査しきれなかった内容を検討する。例えば、「交絡因子など潜在的なバイアスがあるかもしれない」「今回の研究で使用した方法のデメリット」「予定通り実施できなかったこと」「他の施設では当てはまらないかもしれない」「横断研究のため因果関係は不明瞭」「今回の適格基準以外の対象には当てはまらないかもしれない」など。研究の限界を正しく検討することで、論文の科学的妥当性を高めることができる。
- 「一般化可能性」では、今回の研究と異なる状況でも同様の結果が得られるかどうかを検討する(詳しくは下記参照)。例えば、対象者の特性や実験環境、介入内容などから、今回の研究の状況以外の環境(例えば臨床環境など)でも適応可能かを検討する。
一般化とは?
一般化とは、一般化可能性(Generalisability)や外的妥当性(external validity)、適用可能性(applicability)と呼ばれます。「臨床試験で得た知見を、その試験に参加した被験者からより広い患者集団とより広い医療現場へ外挿することが信頼をもってできる程度」のことで、今回の研究が実際の現場で活用できるかどうかの程度です。
今回の研究が臨床にとって意味のあるものかどうかを示すことが重要だよ。
Conclusion[結論]記載時のポイント
Conclusion[結論]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
Conclusionは今回の研究の総まとめです。論文の研究目的と、結論を読めば今回の研究で得られた成果を把握できるように記載しましょう。
そのため、簡潔に記載する必要がありますし、研究結果以上のことを書いてはいけません。また、研究の限界や一般化可能性の問題から、今回の研究結果が絶対的な結果ではないことも踏まえて、謙虚な結論を記載することが大切です。
Acknowledgment[謝辞]記載時のポイント
Acknowledgment[謝辞]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
Acknowledgmentでは、お世話になった人や施設など、たくさん記載してしまいたくなりますが、研究の本筋ではないので簡潔に記載しましょう。
References[参考文献リスト]記載時のポイント
References[参考文献リスト]に記載すべき内容・ポイントを下記にまとめました。
先行研究やその他の文献等を無断で記載してしまうと著作権侵害となるため注意しましょう。論文における引用・参考文献の扱いについては【文献の引用方法】看護研究入門「文献の引用方法や、参考文献リストの書き方を解説!」で詳しく記載しているので良かったら参照してください。
長くなりましたが、これが一般的な研究論文を記載する際の項目毎の内容と記載時のポイントです。下記に「症例報告論文」記載時のポイントも簡単にまとめているので参考にしてみてください。ちなみに、質的研究においても基本的な構成は変わりありません。
症例報告論文を記載する際のポイント
症例報告論文とは、珍しい疾患や新しい治療法について報告する論文です。医師が報告することが多いですが、看護師においても重要だと考えています。
看護は一回性(ある事柄が一回しか起こらず、再現できないこと)が高いため、1つ1つの事例を分析することが重要です。そのため日々出会う事例を丁寧に分析し報告していくことで看護の知見が積み重なっていくと考えます。
症例報告論文には複数事例を報告する場合と、1つの事例を丁寧に分析する場合があります。前述でも解説しているので参照してください。
症例報告論文は一般的な研究論文よりも敷居が低いので、是非挑戦してみよう。病棟内でも症例発表みたいな形で事例の紹介をすることがあると思うよ。だけど論文化をしないと、看護学の発展には繋がらない。日々の貴重な経験を論文にして看護学の発展に貢献しよう。
症例報告論文の基本構成
図
症例報告論文では、「今回の症例の概要」「今回の症例の新奇性」を重視して記載するようにしましょう。それでは、各項目について簡単に解説します。
症例報告論文のTitle[タイトル]
症例報告論文のTitleには、今回報告する症例・事例についての特徴が一目で分かるようなTitleを記載しましょう。他の研究論文に埋もれないためにも、目をひくようなTitleを検討しましょう。
症例報告論文のAbstract[要約・抄録]
Abstract[要約・抄録]の基本的な考え方は一般的な研究論文と同じです。抄録の書き方について詳しく知りたい方は【抄録とは?】看護師必見「学会発表・論文投稿時の抄録(Abstract)の書き方を解説」をご参照ください。
症例報告論文のAbstract[要約・抄録]の特徴は、少ない文字数で事例の概要と新奇性を伝える必要があることです。後述するCase[症例]に記載するような事例の経過等の特徴を簡潔に記載します。
事例の特徴を記載する際は、その事例の何が新しく、何が珍しいのかを強調して記載しましょう。新奇性を強調することで、その事例を報告する意義を示すことができます。
症例報告論文のIntroduction[緒言]
こちらも一般の研究論文と同様に、今回の事例を方向する意義を記載します。社会的な背景や課題などから問題提起を行った上で、なぜ今回の事例を報告するのかを記載しましょう。
また、今回の事例についての一般的な経過や推奨されている看護ケアなどを記載するのも重要です。
症例報告論文のIntroductionでも先行研究を引用しながら論じよう。
症例報告論文のCase[症例]
Case[症例]が、症例報告論文で最も特徴的な部分です。Case[症例]では、今回紹介する事例の経過等の詳細を記載します。
患者背景や現病歴、既往歴、入院経過、生活背景などの情報を記載します。詳しく情報を記載することで、新奇性を強調することができます。
詳しく情報を記載することは大切だけど、今回の事例報告に関係のない情報まで羅列しないように注意だよ。個人情報の管理にも気を付けよう。
症例報告論文のDiscussion[考察]
症例報告論文のDiscussion[考察]では、今回の事例の新奇性を中心に議論を展開します。Introductionの内容を交えながら議論を行うと良いでしょう。
まずは今回の事例が一般的には、どのような特徴があるのかを、先行研究や文献を用いて議論します。その上で、今回の事例は何が珍しく、何が新しいのかを記載します。
例えば、「看護ケアにより期待以上の効果を示した」「患者・家族が予想外の反応を示した」「今までにないケアを実践した」などです。これらを先行研究や既存の理論を用いて、看護学に新しい知見を提供するものなのかどうかを議論しましょう。
一般的な研究論文と同様に、事例以外のことを書きすぎないように注意しよう。
症例報告論文のConclusion[結論]
症例報告論文のConclusion[結論]では、今回報告する事例の特徴と新奇性を簡潔に記載しましょう。何かの課題を解決する研究発表ではないので、解決策等を記載する必要はありません。今回報告する事例をいかに分かりやすく伝えるかが重要です。
また、今回報告する事例でのケア等について、臨床での活用の可能性等を記載しましょう。一般化までとはいきませんが、今回の事例以外の環境では、どのような対応ができるかまで記載すると、読者の臨床実践に繋がります。
以上が症例報告論文を記載するポイントだよ。症例報告論文は1事例からでも論文として成り立つため取り組みやすい論文だと思うよ。
でも、事例を報告した看護系論文が少ないのが現状だね。病棟では症例報告してるけど、論文化までしている人は少ないね。看護ケアには、その人・その病棟しか知らない暗黙知がたくさんあるから、症例報告を論文化することは、看護学の発展には重要だよ。臨床の看護師にこそ症例報告が求められているよ。
論文を書いてみよう!:研究計画から論文執筆までの流れ
ここからは、実際に論文を記載する手順について解説していきます。なかなか論文を書き始められない人や、論文を書けと言われたが何をしたら良いか分からない人は参考にしてみてください。
下記が「研究計画」から「論文執筆」に至るまでの手順です。
後述しますが、研究計画書の作成段階から論文を書き始めることが理想的です。Introduction[緒言]とMethods[方法]に関しては研究計画書の作成段階から書き始めることができるはずです。データ収集を始める前までに、論文のIntroduction[緒言]とMethods[方法]を書き上げておきましょう。
それぞれのステップにおいて参考になる記事を下記で紹介しますので良かったら参照してください。
論文を書いてみよう!:論文の各項目を執筆する手順
それでは、論文を執筆していきましょう。下記が論文を執筆する手順です。
前述しましたがIntroduction[緒言]とMethods[方法]は研究計画書作成段階から書き始め、データ収集前には書き上げておきましょう。研究計画の段階から論文レベルのIntroduction[緒言]Methods[方法]を検討することが大切です。
また、Results[結果]は研究実施・データ収集と並行して記載しましょう。研究計画と論文執筆、研究実施と論文執筆はそれぞれ並行して行うことが重要です。
全て終わってから論文を執筆するわけではないから注意してね。
さらにTitle・Abstractを記載する手順も大切です。闇雲にTitle・Abstractから書き始めるのではなく、論文はIntroduction[緒言]から書き始めるようにしましょう。本文を書き終わった後に、Title・Abstractを記載することで、本文とTitle・Abstractの乖離を防ぐことができます。
論文の各項目の記載方法については、前述の「論文を書いてみよう!:論文の基本構成」を参照してください。
上記の図に沿って執筆することで効率的に論文を書くことができます。論文は、研究テーマが確定してから、研究の実施・論文の投稿までを2~3年以内に行うのが理想的とされています。研究計画・研究実施・論文の執筆を並行して行い、効率的かつ効果的に論文を記載していきましょう。
論文を書いてみよう!:論文執筆のための8つのポイント
論文執筆時のポイントについてもお伝えします。下記のチェック項目を確認しながら記載するようにしましょう。
それぞれ解説していきます。
➀闇雲に書き始めない
まずは、論文の各項目を記載する順番です。詳しくは前述の「論文を書いてみよう!:論文の各項目を執筆する手順」を参照してください。研究計画書作成時から、Introduction[緒言]Methods[方法]を記載し、データ収集と並行して結果を記載していきましょう。
闇雲に書けるところから書いていくことはNGです。順序立てて記載することで、筋の通った文章を記載することができます。
②投稿先の先行研究を参考に記載する
投稿先の雑誌の先行研究、もしくは自分の研究分野の先行研究の中で、自分の研究と似ている研究(研究方法や研究テーマ)をいくつかピックアップしましょう。
雑誌に掲載されている論文は、査読を経ているため信頼性が高い論文であると考えられます(雑誌にもよりますが)。そのためピックアップした複数の研究論文を参考にしながら記載していくことで、質の高い研究論文を記載することができます。
先行研究を参考にしつつも、自分のオリジナリティーを強調することを忘れないでね。
③論旨を一貫させる
論旨が一貫している論文はとにかく読みやすいです。著者が伝えたいことを、直接読者に伝えることができています。
論旨が一貫している論文とは、研究目的と結果・結論が一致している論文です。反対に論旨が一貫していない論文とは、目的には記載していないような知見などを盛り込みすぎた結果、何を言いたいのか分からなくなってしまった論文です。
論旨の一貫した論文を記載するためには、何を自分が一番伝えたいのか、研究の軸となるものを常に意識することです。研究の軸とは研究疑問・臨床疑問です。
定期的に、研究の軸である臨床疑問・研究疑問を振り返りながら、「背景」「研究目的」「研究方法」「研究結果」「考察」「結論」の内容が、研究の軸に沿った内容であるかを確認しましょう。
あれもこれもを伝えたい気持ちをぐっと抑えて、一番伝えたいことを中心に記載しよう。
④簡潔・明瞭に記載する
読みやすい論文のポイントは、とにかく主要な結果が簡潔に記載されていることです。
同じ内容の文章を、いかに短く記載できるかを考えて記載しましょう。また主要な結果及びその解釈を中心に記載することが重要です。
論文の分量を増やすために、副次的な結果や解釈を膨らましている論文もありますが、それも論文を読みにくくする一因です。今回の研究で得られた主要な結果に焦点を絞って議論するようにしましょう。
副次的な効果の説明は、主要な効果を強調するために使用しましょう。
⑤先行研究・文献を書きすぎない
入念に文献レビューを行い、たくさん勉強したあなたは、知っている全ての文献を論文に記載したいと考えるでしょう。しかし、多すぎる文献は論文を読みにくくしてしまいます。また、文献を載せすぎると、今回の研究にとって重要な文献がどれか分からなくなってしまいます。
掲載する文献は全体で20~30程度が適切と言われています。文献レビューで集めた文献から、今回の研究にとって重要なものを厳選するようにしましょう。
論文に載せるのは一流雑誌に掲載されている文献など信頼性の高い文献に限定しよう。歴史の浅い雑誌など、聴いたことのない雑誌を論文に記載する際は、内容を入念に確認してね。
信頼性の低い論文ばかり載せていると文献レビューが不十分だと判断される可能性があるよ。
⑥略語を使いすぎない
略語を使用することで、文章が簡潔になります。しかし略語が多すぎると、何が書いてあるか分からなくなる危険性があります。略語にする用語は限定して記載するようにしましょう。また、専門分野でのみ使われている略語や、今回の研究のみで定義している略語はなるべく使わないようにしましょう。
専門外の人が読んでも分かるように記載することもポイントだよ。
⑦Title・Abstractに全力を注ぐ
Title・Abstractには全力を注ぎましょう。なぜかと言うとTitle・Abstractは、今回の論文の顔になる部分だからです。読者や査読者はTitle・Abstractを読んで、本文を読むかどうかを判断します。多くの人に、あなたの研究結果を示すためにもTitle・Abstractの質を高めましょう。
Titleには研究方法や研究テーマの鍵となる用語を記載し、Abstractには主要な研究目的と、主要な研究結果(数字も)と解釈を簡潔に記載しましょう。Title・Abstractと読めば、論文の内容を概ね把握できるように心掛けましょう。
⑧文中の用語は統一する
本文中に同じような意味の言葉を使用することはあるかと思います。その際に、意味が同じであれば同じ用語を使用することが重要です。
小説などでは、様々な用語を使用することで、文章に彩りが出て読み手を楽しませることができます。しかし、論文の場合は、今回の研究結果を正しく伝えることが重要です。
そのため、統一した用語を使用し、伝えたいことを正しく伝える努力をしましょう。例えば、「看護の実践的な知」「看護の実践的な知識」「看護の実践知」などを、「看護の実践知」で統一するなどです。同じ意味の言葉は、同じ用語で統一しましょう。
同じ意味なのに、用語が変わると、読者を混乱させるからね。せっかく得られた結果を正しく理解してもらうためには、用語への配慮も重要になるよ。
論文を発表しよう!:論文を雑誌に投稿する10の手順
それでは、最後に論文を投稿する手順を解説するよ。下記が論文を投稿してから公開されるまでの一連の流れです。
論文を投稿し出版されるまでには10の手順があります。それぞれ解説していきます。
①投稿する雑誌(ジャーナル)を決める
研究を実施しデータを収集することができたら、次は論文を投稿する先の雑誌を決めましょう。投稿する雑誌により形式等が異なるため、原稿の作成を完了させる前に投稿先を決める必要があります。
投稿先の規定に従わないと掲載してもらえないよ
国内の雑誌に投稿する場合に投稿先を選ぶポイントは下記の2つです。
海外雑誌への投稿を検討している方は下記の「海外雑誌に投稿する際のポイント」を参照してください。
あなたの研究テーマに合致した雑誌か?
あなたの研究テーマに合致した雑誌かどうかを見分けるポイントは
- 興味のある雑誌の論文を読み、雑誌の傾向を掴む
- 興味のある雑誌の投稿規定を読み、雑誌の傾向を掴む
です。
論文を受理してもらうためには、当然ですが、あなたの研究テーマに関連する雑誌を選んで投稿する必要があります。研究テーマと関連の無い雑誌に投稿しても受理してもらえることはありません。
例えば、看護教育系の雑誌に看護実践に関連する論文を投稿しても受理してもらえる可能性は低いでしょう。
何か興味のある雑誌を見つけたら、雑誌に掲載されている論文を読んでみましょう。あなたの論文に似たような論文が掲載される傾向にあるのであれば、受理してもらえる可能性も高いと思います。
また、投稿規定を確認することも効果的です。投稿規定には雑誌のコンセプト等が記載されています。雑誌のコンセプトがあなたの研究テーマに合っているかも確認しましょう。
あなたの研究と傾向が似ている雑誌であれば、あなたの研究が評価される可能性も高いはず。せっかくなので、あなたの研究・努力を評価してもらえる場所に論文を投稿しよう。
論文を流通させる媒体はどれにする?
次に気にするべきポイントは、論文を流通させる媒体の選択です。論文を流通させる媒体(雑誌)には以下の3つがあります。
どの媒体にも良い点と悪い点があります。それぞれの媒体の特徴と自分の論文のテーマを考慮しながら検討しましょう。
Webで全文を公開している雑誌がおすすめ
個人的な検討ポイントとしては、Webで全文を公開している雑誌を選ぶことをおすすめします。最近は、Webで様々な論文を検索することができます。多くの人に自分の研究を知ってもらうためには、Webで無料で気軽に検索してもらう必要があります。
雑誌の中には、学会でしか全文を参照することができない雑誌もあります。できれば無料で全文を公開しているような雑誌を選択しましょう。誰でも見られる論文を投稿することは、広く看護学を発展させることにも繋がります。
海外雑誌の場合は無料の全文公開している雑誌(Open access journal)に投稿する際は、高額な掲載料が掛かります。そしてOpen access journalの中にはハゲタカ・ジャーナル(predatory journal 詳細は下記「海外雑誌に投稿する際のポイント」)と呼ばれる粗悪な雑誌もあるので注意が必要だよ。
学術誌とは?
学術誌とは、主として学会が発行している学会員向けの論文雑誌のことです。学会とは、看護系で言うと「日本看護科学学会」「日本看護研究学会」などです。
学術誌には、全文をWebで無料で公開している雑誌、学会員に限定して公開している雑誌があります。繰り返しになりますが、できれば、全文を無料で公開している雑誌を選びましょう。
学術雑誌では、掲載された論文が一般的な文献データベース(詳細は【文献検討・文献レビューってなに?】看護師必読「論文を読む意味・探し方・選び方を解説」を参照)で検索できる雑誌がほとんどです。
学術誌に投稿するためには、基本的には学会員になる必要があります。投稿料や掲載料については、無料に設定しているところが多いですが、雑誌によっても異なるので確認しましょう。基本的に学会は営利を目的とせず、学問の発展を目的としているため雑誌の購読料や投稿料、掲載料は無料または安価なところが多いです。
学術誌のメリットは、信頼性が高いことです。学術誌では厳格な査読を経て論文が掲載されるため、信頼性が担保されています。また、インパクトファクター(IF)のついている雑誌もあります。
上記の点を踏まえると、一般的には学術誌への投稿が第一選択だと考えます。
厳格な査読があるということは、「掲載までに時間が掛かる」「受理してもらえない可能性がる」ということだよ。これらも考慮に入れて、投稿先を検討しよう。
看護系の学術学会は?
上記でも解説していますが看護系の学術学会は多数あり、日本看護系学会協議会に所属している学会は49学会あります。
参考元:https://www.jana-office.com/file/newsletter_230325_30.pdf
上記の学会では学術誌において研究成果を発表しています。論文を投稿する際の参考にしてください。
商業誌とは?
商業誌とは、主として出版社が発行している論文雑誌のことです。
商業誌という名の通り、営利を目的としています。そのため、読者の購読料・研究者の投稿料、掲載料が高額な場合がほとんどです。
掲載料が1ページ当たり1万円程度かかる雑誌もあるよ。
商業誌のメリットは、電子書籍等でデザインが整えられて掲載されるため読者にとって読みやすい形で流通させることができることです。一方で、商業誌も一般的な文献データベースで検索はできるものの、論文全文の参照は有料の場合が多いです。
商業誌への投稿は、学術誌と異なり、誰でも投稿することができます。また、商業誌によっては査読を行っていない雑誌もあり、そのような雑誌の場合は信頼性が低い可能性があります。投稿する際は、査読を行っている商業誌を選択しましょう。
商業誌は査読の有無が不明瞭な場合が多いため、一般的に信頼性が低い媒体として取り扱わることが多いよ。
紀要とは?
紀要とは、主として大学等の機関が発行する雑誌のことです。
大学内での研究活動の成果発表等が目的の場合が多く、購読料や投稿料、掲載料が掛からないことがほとんどです。
投稿者は紀要を発行している機関に所属している関係者に限られている場合が多いです。また、査読についても、紀要を発行している機関内で行われるため、信頼性が低いと考えられれることが一般的です。
紀要も、学術誌と同様に一般的なデータベースで検索することができ、無料で全文をダウンロードできることがほとんどです(機関の資料管理システム:リポジトリなど)
全ての紀要が信頼性が低いわけではありません。自分が所属する施設に紀要がある場合は、投稿規定の厳格さや掲載されている論文の質を評価してみましょう。
特徴を理解しながら、最適で最速な雑誌を選んで投稿することを心掛けよう。
海外雑誌に投稿する際のポイント
海外雑誌の投稿先を探す場合は、下記のようなポイントを参考にしてください。
それぞれ解説します。
論文採択率が極端に低くないか
Journal Guideで投稿先の論文採択率(acceptance rate)を確認することができます。
看護系雑誌では、情報が記載されているものが少ないですが、看護教員向けの雑誌であるNurse Educatorでは、採択率が20%となっています。ちなみに一流医学雑誌であるLancetなどは採択率が5%と狭き門ですね。
一流雑誌に載ることは、もちろんすごいことですが、採択されることもほとんどありません。時間の無駄になるので、自分の論文のレベルと採択率を考慮して投稿先を選択しましょう。
インパクトファクター(IF)も確認
インパクトファクター(impact factor:IF)とは、学術雑誌を評価するための指標の1つです。IFは、論文がどれだけ他の論文で引用されたかをベースに計算されます。そのため雑誌の影響力を示す値だと言えます。
あくまで目安ですが、IF1以下は避けた方が良いと言われています。ちなみに一流雑誌のNatureなどはIFが20を超えています。
しかし…
IFには「流行りの研究テーマが多い雑誌はIFが高くなる」「狭い専門領域の雑誌はIFが低くなる」などの特徴があります。看護系など医療に関する雑誌では専門領域を狭めている雑誌も少なくないため、IFが低いからといって、一概に質の悪い雑誌とは言えないでしょう。
IFは、投稿先を迷った時の参考程度に考えましょう。
あなたの研究テーマは雑誌の出版国で関心を持たれているか
雑誌の出版国についても確認しましょう。病院での慣習や医療制度は国によって異なります。日本ではあなたの研究が関心を持たれていたいとしても、他国では関心の薄いテーマかもしれません。
例えばNP(診療看護師)が良い例です。日本のNPと海外のNPでは役割が大きく異なります。そのため日本のNPに関する論文は、医療制度の異なる他国では関心を持ってもらえない可能性が多いです。
ハゲタカ・ジャーナル(predatory journal)ではないか
海外雑誌にはOpen access journalと呼ばれるものがあります。これは読者に無料で研究論文が公開される雑誌です。
Open access journalに掲載することにより、論文がより多くの人の目にとまり、より多くの読者を獲得できるという利点があります。しかしOpen access journalに掲載するためには高額な掲載料(article processing charge,APC)が必要となります。
掲載料自体は正当なものです。しかし、世の中には営利を目的として、十分な査読を行わず、論文の質が十分に保証されない状態で論文を公表してしまう粗悪な雑誌が存在します。このような雑誌がハゲタカジャーナル (predatory journal) と呼ばれています。
ハゲタカジャーナル (predatory journal) に掲載してしまうと、質の悪い論文を公表することになり、間違った研究結果の拡散に繋がるとともに研究者としての経歴に傷がつきます。
ハゲタカジャーナル (predatory journal) を見分けることは難しいですが、下記の点に注意して投稿先を確認するようにしましょう。
ハゲタカジャーナルの主な特徴として、以下の傾向が見られます。
・emailで執拗に勧誘する
・ウェブが洗練されておらず誤字や文法の誤りがある
・出版社の所在地や連絡先の記載がない、もしくは偽った情報が記載されている
・編集委員が専門外である
・詳細な掲載料の記載がない
・査読の方針や過程が明瞭でない
・論文撤回や著作権譲渡に関する説明がない
・短時間での論文発表を謳っている
・ISI Journal Impact Factor等に似せた情報が掲載されている
引用:https://www.naist.jp/kensui/information/predatory-journals.html
②投稿規定に沿って原稿を整える
投稿先が決まったら、投稿規定に沿って論文を整えましょう。基本構成は、どこの雑誌も内容は変わらないので前述の「論文を書いてみよう!:論文の基本構成」のポイントを踏まえて投稿先の選定と並行して執筆を始めておきましょう。もちろん➀Introduction[緒言]②Methods[方法]は研究計画の段階から記載しておいてください。
この段階で重要なことは、投稿先の投稿規定を熟読し原稿を整えることです。
投稿先を決めてから論文を書き始めるのではなくて、研究実施と並行して論文執筆をして、投稿先が決まったら原稿の体裁を整えるイメージだよ。
各雑誌には投稿規定というものがあります。投稿規定には、「雑誌が求めている研究分野や投稿者の資格、論文の種類、論文の文字数や図表の数、論文の構成、引用文献の記載方法、図表の形式、原稿の提出方法など」が記載されています。論文を雑誌に受理してもらうためには、投稿規定に沿って原稿、図表を作成する必要があります。
後述しますが、学術雑誌に掲載されるためには厳格な査読を乗り越える必要があります。そのため、論文を記載している段階から、投稿規定に沿って記載できているか等の査読で重要視されるポイントも意識しながら慎重に執筆するようにしましょう。査読で重要視されるポイントは、後述の「④査読(peer review)」に記載しているので参照してください。
査読で重要視されているポイントが抜けていると、雑誌への掲載を断られるか、査読後に大幅な修正が必要になるよ。論文の執筆段階から不安の芽は摘んでおこう。
「日本看護科学学会誌」の投稿規定において論文執筆に関わるものを紹介
国内の看護系雑誌の中でもメジャーな看護科学学会の投稿規定内において、論文執筆に関わるポイントを紹介します。投稿規定内で論文執筆に関わるのは下記の3つです。
- 原稿の書き方
- 図表の書き方
- 文献の引用方法
原稿の書き方に関する投稿規定
以下が「日本看護科学学会誌」における原稿の書き方に関する規定です。
(1) 原稿は日本語とする.
(2) 原稿の構成は,論文題目(日本語・英語),和文抄録(400字),英文抄録(250 words),キーワード(日本語・英語でそれぞれ5語以内),本文,文献,図表,付録の順とする.また,本文中に図,表,付録の挿入希望位置を示す.図表の数は6点以内とする.
(3) 電子投稿システム画面上に入力した著者名や所属機関名,謝辞,著者資格などは本文原稿には含まない.
(4) 原稿には付録(Appendix)をつけることができる.付録の文字数は本文文字数には含まない.付録としては研究内容を正確に理解するために必要な図表や解説などが含まれる.付録の数は10以内とする.
(5) 当該論文が既にプレ・プリントサーバーで公開されている場合にはその旨を電子投稿システムの付記の欄に記載する。
(6) 原則として,標準的なフォント(MS明朝,MSゴシックなど)を用いたMS-Wordで作成する.
(7) 原稿にはページ番号および行番号を挿入する.
(8) 原稿はA4版横書きで,1行の文字数を40字以内,1ページの行数を36行以内とし,適切な行間をあける.
(9) 原稿ファイルは本文(文献を含む),図(写真を含む),表に分ける.必ず投稿前にファイル内の文字化け,画像の鮮明度などを確認する.
(10) 自著を引用する場合は,「著者」「筆者」との文言を用いず,自身の固有名詞を明記し、文献リストにも明記する.
(11) 外国語はカタカナで,外国人名や日本語訳が定着していない学術用語などは原則として活字体の原綴りで書く.
(12) 投稿するファイルには,MS-Wordの校閲機能による変更履歴・コメントを使用しない.
(13) 本誌はブラインドによる査読を行うため,本文中に著者名が容易に推測されるような記載は行わない.ただし,本誌は調査対象となる施設名などを匿名化することは求めない.
(14) 抄録には原則として,目的・方法・結果・結論の項目をつけ,それぞれにつき簡潔に述べる.
(15) 英文抄録は和文抄録の内容と一致しており,ネイティブ・チェックを受ける必要がある.
(16) 改訂稿の場合,査読者からの指摘に基づいて修正した箇所にアンダーラインをひく.
日本看護科学学会誌投稿規定
図表の書き方に関する投稿規定
以下が「日本看護科学学会誌」における図表の書き方に関する規定です。
(1) 図,表および写真は,図1,表1など通し番号をつけ,1ページに1点として作成する.
(2) 図については,DOC(X),XLS(X),PPT(X),JPG,TIFF,GIF,AI,EPSおよびPSDフォーマットなどのオリジナルファイルをアップロードする.
(3) 表は原則として横罫線のみで表示し,縦罫線は表示しない.
日本看護科学学会誌投稿規定
文献の引用方法に関する投稿規定
以下が「日本看護科学学会誌」における文献の引用方法に関する規定です。
(1) 文献については,本文中に著者名,発行年次を括弧表示する.なお,[翻訳書]を引用する場合で,それを本文中に表示する場合は,原著者名(原書の発行年次/訳書の発行年次)と表示する.
(2) 文献は著者名のアルファベット順に列記する.但し,共著者含めは3名まで表記する.外国人著者の名前は,「姓(フルスペル),名(イニシャル).」で記載する.
(3) 例)Benner, P. Orem, D. E.文献の記載方法は下記に従う.原則としてPublication Manual of the American Psychological Association (6th edition)に従う.
[雑誌掲載論文]
・著者名(発行年次):論文の表題,掲載雑誌名,号もしくは巻(号),最初のページ数–最後のページ数
※日本語雑誌名は医中誌略誌名(医学中央雑誌刊行会)に,国際雑誌名はIndex Medicus(アメリカ国立医学図書館)のタイトル略記(NLM Title Abbreviation)の所載に従う.ただし,両データベースに収録されていない場合は,雑誌のフルタイトルを表記する.
[単行本]
・著者名(発行年次):書名(版数),出版社名,発行地
・著者名(発行年次):論文の表題,編者名,書名(版数),ページ数,出版社名,発行地
[翻訳書]
・原著者名(原書の発行年次)/訳者名(翻訳書の発行年次):翻訳書の書名(版数),出版社名,発行地
[オンライン版で,DOIのない場合]
・著者名(年号):論文タイトル,収載誌名,巻(号),開始ページ-終了ページ,URL
[オンライン版で,DOIのある場合]
・著者名(年号):論文タイトル,収載誌名,巻(号),開始ページ-終了ページ,doi:DOI番号
[Webページなど,逐次的な更新が前提となっているコンテンツを引用する場合]
※出版データのあとにカッコで括って検索日を記載する.
・Webページの場合
サイト名:タイトル,Retrieved from: http://・・・・.(検索日:XXXX年XX月XX日)
日本看護科学学会誌投稿規定
日本看護科学学会誌に投稿する場合は、上記の投稿規定に沿って記載することが大前提になるよ。
③論文を投稿する
論文を投稿規定に沿って整えることができたら、雑誌に論文を投稿しましょう。原稿と図表の提出方法についても、各雑誌の投稿規定に記載があるので必ず確認しましょう。
論文を投稿する際のチェックポイント
論文を投稿する際は下記のポイントを必ず確認しましょう。
これが、論文投稿時に遵守すべき項目であり、基本的なマナーです。これらが守られていないと、編集者から原稿が差し戻されることもあります。
基本事項を確認することは、編集者への礼儀だよ。丁寧に確認しよう。
投稿方法の種類
投稿方法には一般的に下記の3種類があります。
電子投稿システムでの投稿とは、論文の投稿や査読・採択の審査をオンラインで行うことができるシステムです。最近では国内誌・国際誌ともに多くの雑誌で採用されています。
電子メールでの投稿とは、国内誌で採用されていることの多い方法で、原稿や図表を電子メール(いわゆるメール)で編集者に提出する方法です。
郵送での投稿とは、原稿や図表を印刷した用紙や、原稿や図表のデータを保存した記録媒体を郵送にて提出する方法です。この提出方法を見かけることは少ないです。
自分が投稿する雑誌の投稿規定を良く確認しよう。
投稿時の提出物
雑誌に投稿する際には下記が必要になります。
カバーレター(Cover letter 添え状)が重要!
カバーレターとは、著者が編集者に対して「論文を雑誌に投稿します」と宣言する書類です。
雑誌の編集者はまず最初にカバーレターに目を通します。そのため、カバーレターの印象は論文の採択に影響します。慎重に記載しましょう。
ちなみに、カバーレターの内容が出版されることはありません。
カバーレターを提出し忘れるミスが多いので注意しよう
投稿規定にカバーレターの提出が求められていない場合でも、必ず提出する
カバーレターに記載する内容
カバーレターには、「私は論文を雑誌に投稿します。今回の研究結果は○○な内容で、○○看護学の発展に必要不可欠な研究結果です。そのため、雑誌に掲載してください」のような内容を雑誌の編集者に訴えるものです。
決まった形式はありませんが、下記の項目について記載するようにしましょう。
カバーレターでは、とにかく「編集者への礼儀」と「研究のアピール」が大事になります。上記の項目を参考にしながら記載してみてください。
カバーレターの提出方法
カバーレターは電子投稿システムの場合は、オンラインの投稿画面から記載できることが多いです。
また、電子メールでの投稿や郵送での投稿の場合は、テキストファイル(Wordなど)に記載して投稿します。
投稿方法は雑誌によって異なるので、投稿規定を確認しましょう。
日本看護科学学会誌の投稿手続き
以下が看護科学学会の投稿手続きです。日本看護科学学会誌では電子投稿システムを採用しています。
(1) 論文の投稿は電子投稿システム「Scholar One Manuscripts TM」で行う.
(2) 電子投稿システムに沿って,著者名や所属機関名,謝辞・研究助成,著者資格,付記を入力し,下記の書類を電子投稿システムにアップロードする.利益相反,著作権譲渡に関する事項は,投稿受付後に送信されるメールに従い入力する.
1) 原稿および図表
2) 論文チェックリスト
3) 迅速査読を希望する場合には,以下の書類を電子投稿システムにアップロードする必要がある.
4) 迅速査読申請書
5) 必要に応じて,学位申請に関する規程や要項等の文書
【投稿システムへの入力】
(1) 著者名や所属機関名,謝辞,著者の貢献内容などの電子投稿システム画面上に入力した事項は本文原稿には含まない.
(2) 著者の貢献内容は,次のように記載する.例)AおよびBは研究の着想およびデザインに貢献;Cは統計解析の実施および草稿の作成;Dは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.(AやBはイニシャルではなく,日本語氏名を記載する)
(3) 著者以外で当該研究の遂行や論文作成に貢献した者(以下,貢献者)がいる場合は,電子投稿システムの「謝辞」の欄に各貢献者の貢献内容を記して謝意を述べることができる.謝辞に記載する者の例として,純粋な技術的支援を提供したもの,執筆の補助,または部門の責任者等が含まれる.
(4) 当該研究の遂行に関して受けた研究助成がある場合は研究助成として電子投稿システムに入力する.
(5) 学術集会にて発表している場合や修士・博士論文に加筆・修正をものである場合は,電子投稿システム画面上の「付記」の欄に入力する
<記載例>
例)本論文の内容の一部は,第○回○○○○○学会学術集会において発表した.
例)本研究は,○○大学大学院○○研究科に提出した修士(博士)論文に加筆・修正を加えたものである.
論文における各著者の原稿への貢献を,電子投稿システムの「著者資格」の欄に記載する.
日本看護科学学会誌投稿規定
④査読(peer review)
査読とは、投稿された論文について、その分野の専門家が内容の査定を行うことです。
査読を行う目的は下記の2つがあります。
通常の学術誌であれば専門家による厳格な査読を経た後に論文が掲載されるため、信頼性が担保されていると考えられます。
なんでpeer reviewと呼ばれるの?
後述しますが、外部査読(external review)に回った後は、2名以上の査読者が査読を行います。つまり、あなたの投稿論文を複数名の同じ分野の専門家(peer)が査読(review)します。このようなシステムのためピアレビュー(peer review)と呼ばれます。
Peerとは同僚や仲間のことだよ。
査読の方法は3種類
査読の方法には主に以下の3つがあります。参考に程度に紹介します。
シングルブラインド(single-blind)
シングルブラインド(single-blind)とは、査読者だけが論文の著者が誰かわかっている査読方式のことです。そのため、論文の著者は誰が査読したかを知ることができません。
査読者は著者の情報を加味しながら論文を評価することができます。
ダブルブラインド(double-blind)
ダブルブラインド(double-blind)とは、査読者も論文の著者も、お互いが誰かを知ることができない査読方式のことです。ダブルブラインド(double-blind)で論文を提出する場合は、論文から著者の識別情報を削除するという手続きが必要になります。
オープンレビュー(open review)
オープンレビュー(open review)とは、査読者と論文の著者の双方が、お互いが誰か分かる状態で行う査読方式です。公開で行われる査読方式ですが、査読のコメントを一般に公開するかどうかは著者が選択することができます。
査読のプロセスを解説
査読は下記のプロセスで行われます。
投稿した後は査読による結果を待ちます。ドキドキですね。
➀雑誌の編集担当者のチェック
論文が投稿されると、まずは編集担当者が論文の概要を確認します。投稿規定に沿っているのか、おかしな研究テーマでないかなどです。
この段階で、不備がありすぎる論文は査読にも回してもらえません。有名な雑誌などでは、一人の編集者が論文のTitleとAbstractを読んだだけで不受理(reject)を判断します。
外部査読に回るだけでも一苦労だね。
②内部査読(in house review )
編集担当者が確認して問題なければ、次は編集責任者(editor-chiefやassociate editorと呼ばれます)が外部査読に出すかどうかの判断を行います。
有名な雑誌の場合はこの段階で却下されてしまうことが多いです。しかし、早めに却下してもらうことで、より掲載の可能性の高い雑誌に、早めに再投稿することができるので、ありがたいと言えばありがたいです。
③外部査読(external peer review)
編集責任者が論文に価値があると判断したら、次に2名以上の外部査読者が手配され、外部査読が行われます。
外部査読では、例えば看護系の雑誌であれば下記のような項目(雑誌によって異なる)について評価されます。
査読者は、上記のような項目毎に5点満点の評価を行い、下記の4つのどれに該当するかを判断します。そして、判断した結果を雑誌の編集責任者に伝えます。
上記の項目に気をつけないと、不受理(reject)の可能性も高くなるよ。FINER /FIRM2NESSにも通じるね。論文を雑誌に掲載してもらうためにも、研究計画を入念に検討することが重要だね。FINER /FIRM2NESSについては【FINER /FIRM2NESSとは?】看護研究の疑問を解決「リサーチクエスチョンを洗練させよう」を参照してください。
複数の査読者による評価結果が一致しない場合は、編集責任者により、3人目、4人目、5人目と査読者が追加されて、論文の評価が行われます。
最終的に、雑誌の編集責任者が、複数の外部査読者の評価を参考に、論文を受理するかどうかを決定します。受理(accept)の連絡が来たら、無事に論文が掲載されることが決まりますが、修正(revision)を求められることがほとんどです。
日本看護科学学会誌の査読に関する事項
日本看護科学学会誌の投稿規定にも、査読に関して記載されており、ダブルブラインドが採用されていることが分かります。
4.原稿の受付および採否
(1) 投稿原稿の受付日は,電子投稿システムに投稿された日とする.ただし本会投稿規程に従っていないものは受け付けないことがある.
(2) 原稿の採否は査読を経て編集委員会が決定する.なお,査読はダブル・ブラインド体制(著者には査読者名および担当編集委員名を知らせないとともに査読委員にも当該論文の著者を知らせない状態で査読を行う方式)で行う.
(3) 論文受理後は,著者名(日本語・英語),所属機関(日本語・英語),連絡者情報,利益相反を明記した本文原稿と図表ファイル(MS-Word,MS-Excel等)を電子投稿システムにアップロードする.
(4) 改訂稿の修正投稿期限は査読結果の通知から,1カ月とする.修正投稿期限を過ぎても再投稿が行われない場合には,不採択扱いとすることがある.ただし,病気や災害などにより投稿者から申し出がある場合はそれを考慮することがある.
(5)編集委員会の判定により,原稿の修正および原稿の種類の変更を著者に提案 することがある.
日本看護科学学会誌投稿規定
⑤査読結果の通知・⑥査読コメントに対して返答・再投稿
査読後は、外部査読者の評価結果と同様に以下の結果の通知が届きます。これは査読コメントに修正した後も同様です。
「査読コメントで小さく修正すれば再検討(minor revision)」「査読コメントで大きく修正すれば再検討(major revision)」は「条件付き採用」とも呼ばれます。
査読の結果、受理(accept)の連絡が来たら、この時点で雑誌への掲載が決定します。ですが、原著論文が1回目の査読で受理されることはほとんどありません。
1回で受理されないのが普通だよ。もし1回で受理されたら、めちゃくちゃ優秀だったか、査読のちゃんとしてない雑誌や、掲載論文の少ない雑誌などの要因が考えられるね。
提出した論文に不備が多すぎたり、根本的に致命的な間違いがある場合などは一回目の査読で「不受理(reject)」の通知が届き、不採択が決定します。
しかしほとんどの場合が、一回目の査読の通知は「査読コメントで小さく修正すれば再検討(minor revision)」または「査読コメントで大きく修正すれば再検討(major revision)」でしょう。これらの場合は、査読コメントに従って実験データの追加や論文の修正を行い再投稿することで、編集責任者が再度チェックを行い、受理(accept)するか再度検討を行うかを判断してくれます。
査読結果の通知を受け取り、査読コメントに修正する流れは以下の通りです
余裕のあるスケジュールを計画しよう
雑誌にもよりますが、受理(accept)されて雑誌への掲載が決定するまで、数カ月かかることが一般的です。この数カ月も、順調に査読と査読への修正が進んだ場合の期間であり、1つ目の雑誌が不受理(reject)になり2つ目の雑誌に投稿する場合などは、さらに時間がかかります。
投稿先を変える場合、雑誌によって論文の規定も異なるので大きく修正する必要があります。スケジュールを立てる際は、複数の雑誌に投稿することになるかもしれないと予測し、余裕のある計画を立てましょう。
査読コメントとは?
査読結果の通知において、対応する必要があるのが「査読コメントで小さく修正すれば再検討(minor revision)」または「査読コメントで大きく修正すれば再検討(major revision)」です。これらの場合には、査読により要修正となったポイントについて査読コメントをもらうことができます。
通常は1人の査読者から5~10程度のコメントがあります。査読コメントの内容は研究方法や解析方法に関する間違い、記載されていない結果がある、結果・解釈が間違っているなどの大きな内容から、誤字脱字など小さなことまで様々なコメントをもらうことができます。
査読者も人間なので、結果を読み間違えて誤ったコメントをすることがあるよ。でもそれは、自分の論文が伝わりにくい文書だったということ。誰でもわかるような文章を心掛けて謙虚に修正しよう。
査読コメントで「小さく修正すれば再検討(minor revision)」の場合の対応
「査読コメントで小さく修正すれば再検討(minor revision)」という結果の場合には、査読コメントに対して少しの修正が必要です。受理(accept)に限りなく近い状態です。1-2週間程で修正し、早々に原稿を再提出しましょう。
査読コメントで「大きく修正すれば再検討(major revision)」の場合の対応
「査読コメントで大きく修正すれば再検討(major revision)」という結果の場合には、査読コメントに対して大幅な修正が必要な状況です。研究の本質的な内容にコメントをもらう場合が多くあります。必要時は研究方法を再検討しデータ収集を再度行うなどが必要になることもあります。そのため2-3ヶ月程度かけてじっくりと修正した上で、原稿を再提出しましょう。
査読コメントを修正し、再投稿する際に必要な書類
査読コメントへの返答・原稿の再投稿の際には下記の書類が必要となります。
返信状を提出するのを忘れないようにね。
返信状とは?
返信状とは、査読結果通知後に論文を再投稿する際に送る書類です。返信状には、「査読コメントに従い修正したポイント」や「査読者コメントへの著者の考え」等を記載します。返信状に記載すべきポイントは下記を参照してください。
査読コメントへ返答する際のポイント(返信状に記載すべき内容)
査読コメントに対応する際のポイントの基本は、1つ1つのコメントに丁寧に対応して再投稿することです。査読者のコメントには丁寧に対応しましょう。
大変な作業ですが、自分の論文がさらに良くなると考えて頑張りましょう。査読は、自分の研究を客観的に評価してもらう良い機会になります。
下記が査読コメントへ対応する際のポイントです。参考にしてみてください。
自分の論文をより良くするためだと思って根気よく修正しよう。
⑦採択の判定⑧論文の受理・制作・編集⑨仮組された原稿を確認⑩出版
査読を経て、論文が受理(accept)されると、ついに、めでたく、制作・編集作業に移ります。編集作業においては、表や図のレイアウトや文章表現、文献の著作権などについてチェックを受けます。編集上の変更点等があれば、指摘を受けるため修正を行います。
また、仮組された原稿(良くある論文の形にレイアウトを整えられたもの)が著者に届けられ、最終チェックを行います。仮組された原稿はPDFファイルで著者に送られるため、修正点がある場合はPDFファイルに直接修正点を記入して雑誌編集者に返信しましょう。
最終チェックの段階では、査読を受けた原稿内容と異なるような修正は認められません。そのため最終チェックでは、誤字脱字や文章表現など編集上のチェックのみを行います。
このようなチェックを経て、数週間後には雑誌にあなたの論文が出版されます(オープンアクセスの雑誌であればWeb上で誰もが閲覧できるようになります)。多くのチェックを経て出版されるため、論文の出版までは通常、論文投稿から半年程度かかることが一般的です。そのため、研究を開始した段階から考えると論文が掲載された時には、1-2年が経過していることもあります。
最新の論文だ!と思っても1-2年前の結果だったりするんだね。最新の結果を知りたければ、原著論文よりは信頼性が多少下がるけど「短報・レター・速報」を確認しよう。
まとめ
看護研究の集大成は、研究結果を論文にまとめて公表することです。研究活動は、昔からある膨大な知識体系の中にあなたの研究結果を積み上げる作業です。研究結果を積み上げるためには、論文として研究成果を残す必要があります。
あなたの努力を論文にまとめて公開することで、新たな知識が看護学の知識体系に加わり、次の新たな研究へと繋がっていきます。結果として、あなたの研究結果は看護の知識・技術の発展につながり、患者・家族や現場のスタッフに還元されていくことでしょう。
論文を執筆することには抵抗があると思いますが、記載方法も投稿方法も、決まった形式があります。そのため、今回の記事を参考に形式に沿って書き始めてみてください。
何事もやってみることが大切。論文執筆は研究計画段階から始まります。気軽な気持ちで始めてみましょう。
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