Last Updated on 2023年3月29日 by カメさん
こんにちは!看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は15分程度で読めます。
今回は経験学習について解説するよ!
社会人である看護師の学習では、経験を基にした学習が重要となります。「なぜ経験学習が大事なのか」、そして「経験学習とは何か」について解説していきます。
- なぜ経験学習が重要なの?「70:20:10の法則」について解説
- 経験学習には様々な理論があるの?
- F.A.J.Korthagen コルトハ―ヘン(2001)の「ALACT モデル」
- M. W. McCall Jr. マッコール(1988)の「リーダシップ開発研究」
- Peter Jarvis ジャービス(1995)の「学習過程モデル」
なぜ経験学習が重要なの?「70:20:10の法則」について解説
1996年に米国の人事コンサルタント会社であるLominger Pressは『Career Architect Planner』 において、成功したリーダーの学びが、70%が「業務経験」、20%が「薫陶」、10%が「研修」であることを報告しました。
この法則は「70:20:10の法則」や「Lomingerの法則」と呼ばれます。
70%:業務経験
業務経験は学びの70%を占めると報告されています。経験を積むことで、できる仕事が増えて自信がついた経験は誰しもがあると思います。
経験から得た知識や技術は、忘れにくく成長につながるよ
20%:薫陶
薫陶とは上司や先輩からの指導です。薫陶は学びの20%を占めます。
自身の経験だけではなく、指導も成長のための重要な要素のひとつです。
10%:研修や読書
学びの要素の10%は、研修の受講やeラーニング、読書です。eラーニングや読書は、日業業務の忙しい隙間時間を使って効果的に学べる利点があります。
業務経験・薫陶・研修は、すべてのバランスがとれてこそ、効果を発揮するよ。今回は、その中でも1番重要な経験を学ぶことについて解説するよ。
70:20:10の理論的根拠は低いみたいです。詳細は下記を参照してください。
経験学習には様々な理論があるの?
経験学習は様々な理論家により発展してきました。その中でも特に有名なのが、下記に示す理論家たちです。
経験学習と言っても、色々な理論があるんだね。それぞれの理論を解説していくよ。
John Dewey ジョン・デューイ(1938)の「経験的認識論」
デューイの提唱した教育論の中核概念は「経験」と「内省(リフレクション)」です。経験については「人間と外部環境との相互作用」と定義しています。
つまり、個人が外部環境に能動的に働きかけることによって経験が生まれ、経験に対するリフレクションを行うことによって認知的に成長する過程が、デューイの教育論だと考えます。
デューイの教育論は、「知識を個人の中に蓄積すること」という伝統的な教育へのアンチテーゼとして提唱されたよ。デューイは日常の経験に焦点を当てていて、インフォーマルで偶然起こる学習を大切にしているよ。
デューイの考える経験とは?
デューイの教育論では、経験を「直接的経験」と「リフレクティブな経験」に分けています。
言葉で説明するのは難しいが、何か気になる・心が揺り動かされる、感覚的な経験のこと。
言葉で説明し理解できる経験。経験と知識をつなぐことで、経験を学問的に意味づけることができる。リフレクティブな経験により学習が生起される。
リフレクションとは?
リフレクションという言葉を良く聴くと思います。リフレクション(Reflection)とは 1930 年代にデューイが提唱した成人教育理論です。振り返りや省察と訳されています。学習者が行動の結果について主体的に考える学習法です。
単なる成功体験の反復という受動的な学習とは一線を画した学習方法と言われているよ。
Donald A. Schön ドナルド・ショーン(1983)の「反省的(省察的)実践家」
ショーンは、実践における振り返り(リフレクション)の構造を分析しています。
ショーンは、リフレクションの理論化ではなく、実践に即したリフレクションに言及しています。実践はとても複雑であり、複雑な事象を理解するために、理論化をし過ぎてしまうことが多くあります。しかし理論化することにより、事象の理解を理論に頼ってしまい、実践から得られる理解や知識を十分に活用することができなくなります。つまり、実践を理解する上で理論が邪魔になることもあります。
実践は、一般化した概念、理論とは そぐわないことも多いよね。だからショーンは実践を理解する上では個々の状況に注目する必要があると言っているよ。
ショーンの考えるリフレクションとは?
ショーンはリフレクションをReflection-in-Action(行為の中でのリフレクション) とReflection-on- Action(行為についてのリフレクション)に分けて考えました。
Reflection-in-Action(行為の中でのリフレクション) とは、実践における行動を妨げることなく同時進行で行うリフレクションです 。実践しながらリフレクションを行い思考を再構築します。実践で遭遇する事象について、常に疑問を持ち思考を繰り返しながら、実践を継続するリフレクションです。
動きの中のリフレクションだよ。このリフレクションは熟練の実践家の特徴とされているよ。
Reflection-on- Action(行為についてのリフレクション)とは、実践がどのような結果を引き起こしたかを知るために、行動を振り返るリフレクションです。このリフレクションは事象が起こった後で、立ち止まり思考を行います。実践の後で、自分の行動のどこが良かっ たのか、どこが悪かったのかについて丁寧に振り返り、次に活かせるポイントを探します。
立ち止まって考えるリフレクションだよ。落ち着いた環境でゆっくり考えよう。
そして下記の図のように、2つのリフレクションを循環させながら自身の考え方を再構築し、次の実践に繋げていくことが重要です。
David A. Kolb デイビッド・コルブ(1984) の「経験学習モデル」
みんな大好き、僕も大好きコルブの経験学習モデルについて解説するよ。少し成り立ちから解説するから、手っ取り早くコルブの経験学習モデルについて知りたい方はこちらをクリックしてね。
コルブの経験学習モデルの基になった理論
コルブは、レビン (Kurt Lewin)、デューイ (John Dewey)、ピアジェ (Jean Piaget) の経験主義者の経験学習に関する理論を概観し、実践家に利用可能な循環論に単純化して経験学習モデルを提唱しました。
デューイは上記を参照してね。レビンとピアジェは下記に簡単にまとめたよ。
レビンは社会心理学の父と呼ばれています。レビンは、人の行動が環境によってどのように影響を受けるかを検討しました。今ここにある具体的な経験を強調した上で抽象的な概念形成について検証しています。
ピアジェは、人間の動的変化としての「発達」の概念を確立しました。幼児期から成人期への発達において「世界について具体的に知覚できる見方」から「抽象的な見方」への発達、また「自己中心的な見方」から「反省的に内面化された見方」への移行することを提唱しました。ちなみに、インストラクショナルデザインでお馴染みの構成主義の提唱者の1人でもあります。
以下のように、ピアジェは思考の発達には段階があるとしています。
コルブの考える学習とは?
コルブは学習を以下の視点で捉えました。
- 学習は、結果 (outcome) ではなく、過程 (process)を重要視する
- 学習とは世界への適応過程である
- 学習とは知識創造の過程である
学習は、結果 (outcome) ではなく、過程 (process)を重要視する
コルブは、学習の結果 (outcome) ではなく、過程 (process)を重要視して経験学習を捉えました。つまり学習とは、経験に根ざした継続的な過程であると考えています。
また知識についても、過程を重要視しています。知識は学習者の経験から引き出されるものであって、経験の過程の中で継続的に培われるものであるとも考えています。
すべての学習は、継続的な過程。つまり再学習の繰り返しなんだね。
心理学者のブルーナー (Bruner) は教育の目的について、継続的な過程を重要視しています。教育の目的とは、知識を獲得する過程で探究心や技能が剌激されることであって、知識を記憶することは教育の目的ではないと述べています。
学習とは世界への適応過程である
コルブは学習を、世界への適応過程であると捉えました。学習は知識の構築といった単純なものではありません。思考や感情、態度、行動などが絡み合う複雑なものであり、人間が世界に適応していくための過程であると捉えています。
コルブは学習を人間が世界に適応していく過程、つまり人と環境の「相互浸透 (transaction)」として捉えました。
「相互関係」 (interaction)と似ているけど、異なる考え方だよ。
「相互浸透 (transaction)」の考え方では、人と環境は分離されずに一体化されていると考えます。つまり学習を「相互浸透 (transaction)」で捉えると、「学習は自己決定的な過程であり、自己の生活と一体化した過程である」と言えます。
「相互浸透」 (transaction)と「相互関係」 (interaction)とは?
相互浸透論(transactionalism)という考え方があります。相互浸透論では、相互浸透(transaction)を、人と環境が相互に影響を与え合いながら、時間とともに互いに変容し、密接な関係を作っていくプロセスとしています(舟橋,2004)。
「相互関係」 (interaction)は二元論的であり、「相互浸透」 (transaction)は一元論に基づいた考え方だよ。
学習とは知識創造の過程である
コルブは学習を知識創造の過程であるとも述べています。
コルブは知識創造を、社会的知識と個人的知識の間の取り引きであると考え、その取り引きの結果が知識であると考えました。社会的知識とは人間が蓄積してきた文化的経験による文明化された客観的な知識です。そして個人的知識は、個人が蓄積した人生経験による主観的な知識です。つまり、客観的な知識と主観的な知識の取り引きが知識創造の過程であり、学習だと考えます。
そしてコルブは学習を「経験の変容を通して、知識が創り出される過程である。」と定義しました。
コルブの経験学習モデルとは?
コルブは、経験学習を「具体的経験の変換を通じて、知識が創出されるプロセス」と定義しました。
その定義を踏まえて、「具体的経験」「内省的観察」「抽象的概念化」「能動的実験」の循環型サイクルから構成される経験学習モデルを提唱しました。
簡単に言うと、「具体的経験」をして、その内容を「内省(リフレクション)」することで、「抽象的な概念を抽出」して仮説や理論に落とし込み、 それを「新たな状況に適用する」ことによって学習するというモデルのことです。
下記でそれぞれの段階を詳しく解説するよ
具体的経験
その個人が置かれた状況、つまり業務などにおいて具体的な経験を行う段階です。
コルブは「具体的経験」を、学習者と環境間の相互作用により生み出されるものと考えています。
つまり、経験から学ぶためには、「学ぶことができる環境」と「能動的に学べる学習者」の2つの要素が重要になるということです。経験学習における「経験」とは、誰かから与えられるものではなく、自分から獲得する能動的な営みであることを理解しましょう。
経験とは学習者が自ら作り出すものなんだね。
内省的観察
いったん実践・事業・仕事現場などの環境から離れて、自らの行為・出来事の意味を振り返る過程です。振り返る際は、俯瞰的に多様な観点から振り返ることことが重要になります。
内省的観察は自身の具体的経験を意味づけることであり、経験を既存の知識の枠組みで捉え直す過程であるとも言えます。
内省的観察は、「内省」や「省察」「リフ レクション」「反省的思考」と呼ばれることもあるよ。内省については、デューイやショーンが言及しているね。
内省的観察は他者による客観的視点も重要
内省は、自分自身の行動を客観的に捉えることが重要です。そのため、同僚や先輩からのフィードバックも重要とされています。
抽象的概念化
経験を「一般化・概念化・抽象化」することで、他の状況でも応用可能な「知識・ルール・スキーマ・ルーチン」を自らつくりあげる過程です。つまり具体的な経験を、他の状況でも応用できるように自分なりの「仮説や理論」に落とし込むということです。
コルブの経験学習モデルにおいて学習とは「経験−内省のプロセス を通じて、経験そのものを変換し、ルー ル・スキーマ・知識をつくりだすプロセス」とされており、抽象的概念化は経験学習の循環サイクルにおいて重要な段階です。
「抽象的概念化」という言葉が難しくて分からない
抽象化とは「複数の事例から共通点を抜き出す作業」
概念化とは「共通点を一つの言葉でくくる作業」
つまり抽象的概念化とは、上記2つの言葉を合わせた言葉で、「複数の具体的な経験の振り返りから、共通点を抜き出し1つの言葉でくくる作業」だと考えてください。
成功体験であれ、失敗体験であれ、具体的な経験を体系的に整えて、他の状況で応用できる知識に変換して活用していくことが重要だよ。
能動的実験
抽象的概念化により得られた仮説や理論を新しい状況下で実際に試す過程です。
コルブは経験学習プロセスについて「経験を通して構築されたスキーマや理論が、実践されてこそ意味がある」としています。その実践から、後続する経験や内省が生まれていきます。
能動的実験によって、次の具体的経験が得られるよ。経験学習を循環型サイクルとするためには能動的実験が重要になるね。
「能動的実験・具体的経験」と「内省的観察・ 抽象的概念化」の2軸で捉える
経験学習モデルにおいて「能動的実験・具体的経験」と「内省的観察・ 抽象的概念化」という二つのモードが循環することで、学習が起こり、知識が創造されると言われています。
「能動的実験・具体的経験」を行わない経験学習は、「抽象的な概念形成」しか行わないため、現実正解において効力をもちません。また、「内省的観察・抽象的概念」を行わない経験学習は、学習が生起されず、新しい知識が創造されません。
経験による内省、内省による経験を継続することが重要だね。
経験学習モデルを用いた例
バイタル測定を例に考えます。
バイタルサインを測定して30分後に急変した。
バイタルサインを測定した際の状況を客観的に振り返った結果、測定したバイタルサインの値が異常値かどうかを確認していなかった。また血圧等の測定は行ったがフィジカルアセスメントは行わなかった。
バイタルサインの測定は、異常値を確認するとともに、フィジカルアセスメントも行い統合的に状態を判断する。
翌日の勤務でバイタルサインを測定する際に、抽象的概念化した内容を試した。
以下に、研修等で使用できる学習資料の例をダウンロードできるように貼っておきます。参考にしてください。
コルブの経験学習モデルの課題
コルブの経験学習モデルは「内省を重要視する点」や、「実務家が使用しやすいように単純化した点」など、良いところがあります。しかし課題もあります。
コルブの経験学習モデルは単純化されているため内省のプロセスを明確に示していません。また、学習の動機づけとして重要な感情のプロセス(不安、恐れ、疑問、喜びなど)が組み込まれていないことも課題とされています。
上記の課題については、ギブスが検討しているよ。個人的には、単純化したことが重要だと思うけどね。あれが無いこれが無いと批判し始めたらきりが無いよね。
さらにコルブの経験学習モデルでは。時間的な変数が明確な形として組み込まれていないことも課題とされています。
経験学習モデルにおいては、経験学習のサイクルを回すことが重要としています。しかし、どの程度繰り返せば熟達するかなどは分かりません。チェス・テニス・音楽・絵画などの特定領域の熟達者を対象とした先行研究では、特定領域の熟達者になるためには、最低でも10年の経験が必要であるという「10年ルー ル」が提唱されています。
10年経験を積めば良いというわけではないよね。良質な経験学習サイクルを10年間行うことが重要だよ。
経験の時間的変数に着目した理論で有名なのが、Dreyfusの技術習得モデルです。そして、この技術習得モデルを看護に適用したのがBennerです。
Graham R. Gibbs グラハム・ギブス(1988)の「リフレクティブ学習サイクル」
コルブの経験学習の欠点(学習の動機づけとして重要な感情のプロセスが組み込まれていない)を補ったものが、ギブスのリフレクティブ学習サイクルと言われています。
特にコルブの内省(リフレクション)部分を詳細に提示しているため、「リフレクティブサイクル」と呼ばれているよ
ギブスの理論は下記の「事実の記述(具体的経験)」→「感情」→「評価」→「分析」→「結論」→「アクションプラン」の6つの循環サイクルです。コルブの理論と比較すると、「感情」の要素が追加されていることが分かると思います。
そのため、ギブスのリフレクティブサイクルでは、事実に加えて、感情についてもリフレクションできるのが特徴です。
ギブスの理論も看護の研究で使用されることが増えてきているよ。それじゃあ、ギブスの理論についても各ステップ毎に解説するよ。
事実の記述(具体的経験)
経験した内容を記述します。実際に起こったことについて詳しく記載しましょう。
この段階では評価や分析は行わず、事実のみを記載することがポイントです。
ここの記述はボリュームが大きくなるよ。詳しく記載しよう。
感情
経験した内容に対して、感じたことを記述します。事実に対する自身の感情(喜び、不安、怒り等)を振り返りましょう。
思ったことを率直に書き出そう。
評価
経験した内容について、何が良くて、 何が悪かったのかを評価します。良かった点や、悪かった点を書き出してみましょう。
分析
評価したことについて分析します。つまり、評価に至った原因を考えてみましょう。
結論
分析を踏まえて、どのような結論が得られるかを検討します。結論には、様々な状況に適応可能(一般化可能)な結論と、個別の事象に応じて適応できる結論があるとされています。
アクションプラン
次に似たような状況に遭遇した場合、経験した内容から学んだことを、どのように活用するのかを考えます。つまり、次に使える対処法を考えます。
「結論」と「アクションプラン」は、コルブの経験学習における「抽象的概念化」の過程だね。
リフレクティブ学習サイクルを用いた例
コルブの時と同じく、バイタルサインの場面を例に考えてみます。
バイタルサインを測定して30分後に急変した。バイタルサイン測定時に、脈拍と血圧で異常値を示していた。バイタルサイン測定時は、同じ時間に測定する患者が複数名いたため短時間で実施していた。
業務としてバイタルサインを測定していた。失敗した、自分の責任だと感じた。
「良い点」
短時間でバイタルサインを測定することは、効率が良い
「悪い点」
異変を見逃しやすい
効率を重視したあまり、バイタルサイン測定の本来の目的が失われた。
バイタルサイン測定では、測定だけでなく評価も行う必要がある。
- バイタルサイン測定の際は、必ず評価を行う。
- 一人のバイタルサイン測定の時間を担保するために、同じ時間のバイタルサイン測定は3名までとする。
以下に、研修等で使用できる学習資料の例をダウンロードできるように貼っておきます。参考にしてください。
F.A.J.Korthagen コルトハ―ヘン(2001)の「ALACT モデル」
ALACT モデルとは、コルブの経験学習モデルを教師教育に適用したものです。
コルトハーヘンは、ALACTモデルによるリフレクションを活用した「リアリスティック アプローチ」というものを提唱しています。「リアリスティック アプローチ」とは簡単に言うと、学習者が「日常の経験」を「リフレクション」して学ぶことです。
ALACTモデルでは下記の図のように、個人は「①行為」を行い、その行為を内省することで「②行為の振り返り」を行い、振り返った内容についての原因を検討する「③本質的な諸相の気づき」を行います。そして①~③で振り返った内容を基に、新たな行為を考える「④行為の選択肢の拡大」を行い、「⑤新たな試み」を行います。
コルブ同様に、実践と内省の循環プロセスを重要視しているよ。段階毎の細かい資料は割愛するから参考文献を参照してね。
「本質的な諸相への気づき」という言葉が難しい
「本質的な諸相への気づき」とは、経験した出来事が、自分にとってどのような意味を持つのか、何か問題があるのか、新しい発見はあるのかを考察することで、問題の本質を認識する営みです。
つまり、事実や、事実から感じたこと・考えたことの原因を明確化して、現実の問題を客観的に構造化することです。
コルブの内省的観察に似ているね。
ALACTモデルの特徴は?
ALACTモデルの特徴は、内省によって行動の選択肢を広げるというプロセスが明示化されているところです。「行為の内省」「本質的な諸相への気づき」「行為の選択肢の拡大」というプロセスを経ることにより、行動レベルで、新たな教訓を構築することができます。
またコルトハーヘンは、行動の根底、つまり表面には表れない意思や思考、感情、要望に着目しています。ALACTモデルでは、ギブスのように「感情」のステップ等の明示化はしていませんが、行動の根底にあるものを内省により掘り下げていくことを重要視しています。
コルトハ―ヘンの氷山モデル
行為の奥にある、意思や思考、感情、要望を掘り下げるために「氷山モデル」を提示している。
リフレクションにより掘り下げると・・・☟
リフレクションにより、この氷山を掘り下げることが「本質的な諸相の気づき」へと繋がっていきます。
M. W. McCall Jr. マッコール(1988)の「リーダシップ開発研究」
経験学習はビジネスの分野でも注目されています。
ビジネスの分野において経験学習の重要性を主張した1人がマッコールです。マッコールはリーダーシップ開発研究において、リー ダーは現場の業務経験で発達することに着目して経験学習を重要視しました。
マッコールは米国の上級役員を対象に実施した大規模なインタビュー調査により、経験を通じてリーダーシップを学習するためのフレームワークを構築し、提示しています。
マッコールは、「仕事の上で飛躍的に成長した出来事とそこから得られた教訓」を抽出することで、フレームワークを作成したよ。日本でもこの結果を基にリーダーシップ開発研究が行われているよ。
この研究では、ビジネス分野でのリーダーが、どのような経験から、何を学んでいるのかを探りました。結果として、ほとんどの上級役員が仕事を通じた直接経験を通じて学んでいることが明らかとなりました。具体的には「課題」「他者(上司)」「苦難」という3つのカテゴリーに関して多様な経験を積むことが重要という結果となりました。
他にも、McCauleyマッコーレイ(1988)が学習を促す挑戦的な職務状況に着目するなど、多くの実証的研究が行われています。
マッコーレイが着目した「学習を促す挑戦的な職務状況の特性」とは?
マッコーレイは、マッコールの実証研究をベースに、「異動」、「タスク特性」、「障害」という3つのカテゴリーと、15の挑戦的な職務状況を設定しました。例えば、「異動」とは不慣れな業務や、自身の力量を証明しなければいけない状況などです。マッコーレイはこのような状況に置かれることにより学習が促進されると報告しています。
ちなみに「障害」における、支援不足 や扱いにくい上司の存在などは、学習を阻害する傾向があるとの報告もしているよ。
Peter Jarvis ジャービス(1995)の「学習過程モデル」
ジャービスは、コルブの経験学習のサイクルが単純化され過ぎていることを問題として、学習過程モデルを提唱しています。
ジャービス は、学習は「学習者」と「学習者が置かれている社会文化的な環境」の相互作用で生まれる複雑な過程であると主張したよ。確かにその観点から考えると、コルブのモデルは単純過ぎるのかな?
ジャービスは、下記に引用した図のように、経験に対する反応には9つのタイプあると主張しました。そしてそれら9つのタイプを「非学習」「非反省的学習」「反省的学習」の3つのカテゴリーに分類しました。
さらに、学習過程の流れを下記の図で表現しています。
それじゃあここから、3つのカテゴリーと、9つの反応について詳しく解説するよ。
非学習とは?
非学習というのは、学習というものは必ずしも常に経験から学ぶわけではないことを示しています。
非学習には「仮定 」「非熟慮」「拒否」 の 3つがあります。
仮定
世界は変わらず、成功した行為は繰り返されるという感覚に基づく反応です。学習者は無思考的で機械的な状態にあります。
上記のモデルだと1→ 4の状態です。
経験の過程を踏んでいないね
非熟慮
忙しすぎて考える暇がない状況や、その経験がもたらす結果を考えるのが怖い状況など、学習者が学習することに対応していない状態がもたらす反応です。
これも、上記のモデルだと1→4の状態です。
仮定と同様に経験の過程を踏んでいないね
拒否
経験をして考えはするが、経験による学習の可能性については拒否している状態がもたらす反応です。ある程度の地位を獲得している人に多い傾向です。
上記モデルだと1→ 3→ 7→ 4 or 9のプロセスです。
経験はするけど、学習の過程は踏んでいないね。でも変化をする可能性はあるよ。
非反省的学習とは?
非反省的学習とは、その名の通り、反省(リフレクション)を行わない学習です。
非反省的学習には「前意識の学習 」「技能 の学習」「記憶」の 3つがあります。
前意識の学習
経験はしているけど、視界や意識の周辺で起こっているから、学習には至らず、記憶としての蓄積だけです。
上記モデルだと、1→ 3→ 6→ 4のプロセスだよ。
上記の拒否と似ているけど、経験は意識の縁の出来事だから、把握しきれてないね。
技能の学習
運動や訓練、単純作業のような手続きに関する学習です。
コミュニケ ーションによる相互作用では無く、行為を繰り返すことによる学習です。
上記のモデルだと1→ 3→ 5→ 8→ 6→ 4 or 9のプロセスです。
学習のプロセスは踏んでいるけど、経験の評価についての内省はしていないね。
記憶
最も馴染みのある学習形態だと思います。経験や既存の知識を記憶する営みです。
上記のモデルだと1→ 3→ 6(→8→ 6)→4or9のプロセスです。
可能だったら評価と記憶の相互作用のプロセスを踏むよ。評価の過程を踏むことで、より深い学習に繋がるよ。
反省的学習とは?
反省的学習とは、個人が経験の振り返りを行い、自らの学習を評価します。つまり、内省を伴う学習です。
すべての反省的学習が、素晴らしいわけでは無いというところがポイントだよ。
反省的学習には「黙想」「反省的な技能の学習」「経験学習」の3つがあります。
黙想
自分の経験について考えるが、社会や現実との関連は検討せずに結論に達する学習です。
上記のモデルだと1→ 3→ 7→ 8→ 6→ 9のプロセスです。
内省はしているけど、実践には繋がっていないね。宗教家の瞑想とか、哲学者の考え方と言われているよ。実社会との関係性は考慮していないね。
反省的な技能の学習
これは専門職の学習で多く見られるプロセスです。専門家が自らの実践を考え、知識・技能を磨く過程です。
上記のモデルだと1→3→ 5→ 7→ 8→5→ 8→ 6→ 9のプロセスをたどります。
職人とかの学習過程だね。経験した後に実践を行い、実践した内容を内省します。コルブの経験学習サイクルとは反対の順番だね。
経験学習
理論が実践の中で使われる学習形態です。
つまり実践により、理論と現実社会が関連づけられ、新たな知識が創造されます。
上記のモデルだと1→ 3→ 7→ 5→ 8→7→ 8→ 6→ 9のプロセスをたどります。
経験したことを内省して理論化して、実践を行なっているね。ジャービスの考える経験学習は複雑だけど、コルブのモデルに似ているね。
職種毎に「経験学習のプロセス」を明らかにした研究を紹介
経験学習の基本は同じだけど、職種によって特徴があるから見てみよう。今回は看護師・理学療法士・教師の経験学習のプロセスを探索した研究を紹介するよ。
看護師の経験学習のプロセスとは?
この研究は、経験年数10年以上の熟練看護師が、どのような経験を経て看護に関する知識や技術を獲得しているかを明らかにしました。
方法は自由記述によるアンケート調査です。
キャリア初期を1-5年目、キャリア中期を6-10年目、キャリア後期を11年目以降と分類した上で、分析を行なっています。
分析の結果、「看護師は、段階的に知識・スキルを獲得してい ること」、「11年目以降の後期においても、看護師は経験から積極的に学んでいること」「患者・家族との関わりから看護師がコミュニケーション能力を学ぶようになるのは中期以降であ ること」、「11年目以降の看護師は、看護観や 自己管理能力などのメタ認知的能力を経験から学習していること」を明らかにしました。
看護師の経験年数によって学んでいることが違うんだね。学習プログラムを計画する時は、対象の経験年数に合わせた内容が重要である理由がわかったね。
理学療法士の経験学習のプロセスとは?
この研究の目的はベテランの理学療法士の経験学習プロセスを特定することで、成長を促す経験と学習内容を明らかにしました。
方法はベテラン理学療法士3名への半構造的インタビュー調査です。
結果として、キャリアの初期に「障がいを有した患者の社会参加に向けた実践経験」から「人とのかかわりや社会・生活に対する実感」を学習し、キャリア初期~中期に「予期できぬ否定的な経験」から「医療の厳しさ」を学習、「重度患者を基本的理学療法で改善した経験」から〈基本的理学療法技術の有効性〉を学習していました。キャリア中期~後期には「実習生や新人に対するサポート経験」から「自己内省による知識・技術の整理」を学習し、や「多職種連携による介入経験」から「コミュニケーション」を学習していることが明らかとなりました。
上記の看護師の研究と同様にキャリアの段階で経験学習プロセスを捉えているね。キャリア初期〜中期で基本技術を学び、中期以降にコミュニケーションや自己認知に関する学びを行うのは一緒何だね。
教師の経験学習プロセスとは?
この研究は上記の研究(成長プロセスで何を学んだか)と異なり、教師の経験学習の特質をモデル化することにより、教師の経験学習プロセスを明らかにしています。
2つの調査研究を実施しています。研究Iにて教育行政職経験のある校長を対象として面接調査を行い、教師の経験学習モデルを構築し、研究Ⅱで事例分析することで、モデルの妥当性を検討しています。
教師の経験学習モデルでは「開く(学ぶ教師)」「閉じる(学ばなくなってしまった教師)」が鍵概念として用いられました。そして「閉じた教師」も学校内のコミュニティにおける立ち位置の自覚と修正により「開いた教師」へと変容することを明らかにしてモデルを構築しました。
面白いね。経験から学習する状態になっているかどうかは、コミュニテ ィ内の立ち位置によって変動するんだね。
経験学習の活用結果を報告した論文を紹介
この研究は医学部におけるシミュレーション教育に関する研究です。経験学習のモデルはシミュレーション教育で多く活用されています。
教育方法は、仮想患者シミュレー ションをsmall group discussion(グループ討論) の形式で行った後に、デブリーフィングを行う形式です。
症候領域を限定した仮想患者シミュレーションによるグループ討論とデブリーフィングによる振り返りを組み合わせることで経験学習のサイクル(コルブ)が起こり、問題解決能力獲得が期待されます。
さらに、シミュレーション訓練後に臨床実習に参加することで、シミュレーションの経験と、実践が繋がり経験学習サイクルの循環が促されます。
シミュレーションによる実践(具体的経験)→デブリーフィング(内省的観察)(抽象的概念化)→臨床実習(能動的実験)の流れで経験学習のプロセスを踏むんだね。
おまけ:経験学習を測定する尺度を紹介
おまけですが、経験学習を測定する尺度を紹介します。
尺度は上記の論文で紹介されています。
木村ほか(2011)は経験学習の行動に焦点を当てた尺度を開発しています。「具体的経験」「内省的観察」 「抽象的概念化」「能動的実験」の4因子16項目の尺度です。
経験学習の測定のついては課題も多くて、今回紹介する研究では上記の木村ほか(2011)の尺度について、若年労働者の経験学習を測定する際の因子構造の妥当性を検討しています。
この研究の条件では、2因子構造が妥当でした。その結果から「具体的経験」「内省的観察」「抽象的概念化」「能動的実験」の4因子に固執せずに解釈する必要性を示唆しています。
コルブを含めて、様々な人が経験学習に関する尺度を作成しているけど、信頼性妥当性が検証されてない尺度が多いんだって。
まとめ
経験学習により実践とリフレクションの循環が起こることで学習効果が高まります。リフレクションは 上記で紹介した米国の思想家デューイが1930年代に提唱しました。そしてコルブが経験→振り返り→概念化→実践→経験→という終わりのない循環型の経験学習モデルを提唱したことにより、経験学習は発展しました。
最後まで読んでくれてありがとう!長くなっちゃったけど、これで経験学習の概要が分かったね。
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コメント
大学で教員をやっております。
体系的に分かりやすくまとめてくださって、大変参考になりました。
お礼を申し上げたくメール差し上げました。
心から感謝申し上げます。
嬉しいお言葉ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。