Last Updated on 2022年11月13日 by カメさん
こんにちは!救命センターで働く看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は7~8分程度で読めます。
今回は外傷診療における「Primary survey(PS)」と「Secondary survey(SS)」について解説するよ!
PSとSSは基本的に医師が行うけど、PSやSSの結果で診療の流れが大きく変わるから看護師も理解が必須だよ。
外傷診療では救急車が来院し、初療室に移動した段階でアンパッケージ等の診療準備を行います。Primary survey(PS)は、診療準備と並行して実施され、蘇生が必要な要因を探索します。
この記事を読んで、外傷に関する正しい知識を身に着けましょう。全てはPreventable trauma death(防ぎうる外傷死)の根絶のためです。医師も看護師もチームで協力して治療に臨みましょう。
Primary survey(PS)
Primary survey(PS)とは患者の生理学的異常を特定して蘇生するフェーズです。
生理学的異常と解剖学的異常とは?
生理学的異常とは呼吸や循環など人体の機能に関する異常です。つまりPSでは蘇生を必要とする機能的異常を探索します。
解剖学的異常とは骨格や筋肉、臓器など人体の構造に関する異常です。つまり、SSでは骨折や臓器損傷などの構造的な異常を探索します。
Primary survey(PS)はABCDEアプローチ
PSはABCDEの順に生理的機能が維持されているか評価します。
ABCDEとは気道(Airway)呼吸(Breathing)循環(Circulation)中枢神経障害(Disability of CNS)脱衣と外表・体温(Exposure and Environmental control)です。
ちなみにABCは生体における酸素の流れに沿っているよ。
ABCDEに沿って緊急度の判断や処置・検査を行います。評価の過程で気道閉塞や出血などの異常があれば、速やかに蘇生を行います。
また、評価の途中でバイタルサインの変化があった場合はA(気道)に戻って再度評価を行います。
気道(Airway)
会話ができれば気道が開通していると判断します。気道が開通しているのであれば酸素10L/分をリザーバーマスクで投与しましょう。
もし気道が閉塞している可能性があったら?
頸椎を保護しながら下顎引き上げ法にて気道を確保しましょう。それでも気道確保できない場合は気管挿管を行います。
ビデオ喉頭鏡は首を伸展する必要が無いので、外傷の際は事前に準備しておこう。
ゴロゴロ音が聞こえたら?
ゴロゴロ音が聴こえた場合は、血液流出による気道閉塞のリスクがあります。ヤンカーを使用し吸引しましょう。
また顔面外傷により出血が多くて視野の確保が困難な場合は、輪状甲状靱帯穿刺・切開などの観血的な気道確保が選択されます。
気道の処置は人員が必要です。頭側の処置を担当する人を用意しましょう。
外傷における挿管の適応
外傷の際の挿管の適応をABCDの異常別にまとめています。参考にしてください。
呼吸(Breathing)
A(気道)が解決したら次の目標はB(呼吸)の安定化です。呼吸は「見て聴いて触って」で評価を行います。
超致死的な胸部外傷である「TAFな3X」がキーポイントになります。詳しくは下記の図を参照してください。
B(呼吸)の評価では、「自発呼吸が可能か」、「補助換気が必要か」を評価しています。補助換気が必要な場合は早急に人員を調整しましょう。
見て : 視診
まずは呼吸数を数えて、頻呼吸と徐呼吸の評価を行います。
次に胸部の打撲痕を確認します。胸部外傷の有無を確認しましょう。動揺する胸郭が有ればフレイルチェストの可能性もあります。
胸郭挙上の左右差も確認します。左右差がある場合や胸郭の盛り上がりがある場合は緊張性気胸の可能性があります。
呼吸補助筋の使用も確認しよう。努力呼吸があれば、B(呼吸)の異常があるかもしれないよ。
緊張性気胸が疑われた場合は緊急で胸腔穿刺及び胸腔ドレナージが必要となります。
胸部外傷が疑われる情報があるならば事前に準備しておきましょう。
聴いて : 聴診
聴診では左右差の有無を確認します。左右差が聴診部位は左右差が最も分かりやすいとされる腋窩での聴診が推奨されています。
前胸部を聴診すると反対側の呼吸音を拾ってしまうことがあるよ。
触って : 触診、打診
触診と打診は、損傷の少ない部位から行います。
触診の際は、両手で優しく前胸部と側胸部を覆うように行うことがポイントです。触診では「圧痛・動揺・変形・皮下気腫」を確認します。
また、打診では「故音(空気)、濁音(血液)」を確認します。
チェック皮下気腫とは?
皮下気腫がある場合は気胸が示唆されます。胸部外傷によって損傷した肺や気管から漏れた空気が、皮下組織にたまることにより発症します。
皮下組織を触ると握雪感と呼ばれる「グジュグジュ」した感触があります。胸痛や呼吸困難感を訴えることがあります。
ちなみに縦隔気腫とは、気管や気管支が損傷した際に、左右の肺に挟まれた部位に空気が漏れた状態だよ。胸痛や呼吸困難感、息切れ、チアノーゼ、血痰等の症状があるよ。
循環(Circulation)
C(循環)ではショックの有無を確認します。外傷におけるショックのほとんどが出血による循環血液量減少性ショックです。
ショックは統合的な評価を行う
ショックはバイタルサインの数字だけで評価しないようにしましょう。ショックの初期は代償作用により血圧が正常範囲にあることが多いです。
頻脈や冷汗・湿潤など、複数のバイタルサインと身体症状を統合的に評価してショックを察知しましょう。
出血源の検索
まずは体表面の活動性出血を探しましょう。活動性出血があれば圧迫止血を行います。
次に体内の出血を探しに行きます。体内は胸腔、腹腔、後腹膜腔の3つの部位の出血を確認します。この3つ頭文字を取ってMAPと呼ばれます。
MAPそれぞれの検査方法は以下の通りです
FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)とは?
FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)とは迅速簡易超音波検査法のこと。心嚢腔、腹腔および胸腔の液体貯留(出血)の有無の検索を目的とする。
出血性ショックの治療
出血性ショックの治療は輸液、輸血による外液負荷を行います。重症例では、必要時REBOAによる一時的な止血を行いながら、開胸・開腹による外科的止血、IVRによる経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization; TAE)などダメージコントロール手術を行います。
外傷の輸液は低体温になることを予防するため温めた外液を投与します。また急速な輸液や輸血のポンピングが必要となることもあるため、20Gで輸液ルートを2本確保します。
中枢神経障害(Disability of CNS)
A(気道)B(呼吸)C(循環)の安定が確認できたら、次は意識レベル(GCS)、瞳孔所見、四肢麻痺の有無を確認し「切迫するD」を評価します
以下の症状を認めた場合を、切迫するDと表現します。切迫するDとは脳ヘルニアの兆候や頭蓋内圧亢進を示唆する状況です。
切迫するDの場合は「Secondary survey(SS)」の始めに頭部CTを撮影します。
脱衣と外表・体温(Exposure and Environmental control)
Primary survey(PS)の最後は脱衣と体温管理です。脱衣は初療室に移動した段階で行われ、脱衣されると体温は急速に低下します。
低体温は外傷における死の3徴候の1つであり、凝固障害を引き起こします。
室温の調整や加温した輸液、毛布の使用により保温を心がけましょう。
体温は輸液の投与や脱衣などの影響を受けて変動するため、来院時だけでなく経時的に測定しましょう。
外傷死の3徴候とは?
外傷死の3徴候とは、外傷において予後不良の原因となる「低体温、代謝性アシドーシス、凝固障害」のことです。これら3つの因子は相互に関係しています。
これらが出現した場合は、外科的治療においては止血と汚染回避に徹したダメージコントロール手術(DCS)が選択されます。
死の3徴候が生じている状態で、大規模な根治的手術の侵襲が加わると、患者にとって致死的となりかねないよ。
Secondary survey(SS)
Primary survey(PS)が終わり患者の状態が安定していれば、Secondary survey(SS)に移行します。
Secondary survey(SS)では詳細な検索により患者の解剖学的異常を特定して根本治療に繋げます。
頭部CT or AMPLE聴取
PSにて切迫するDを認めた場合はSSの始めに頭部CTを撮影します。
このタイミングで全身CTを撮影することが多いよ。
切迫するDが無ければSSの始めにAMPLEを聴取しましょう。
AMPLEの聴取の後は全身の診察に移ります。
合言葉はhead to toe / front to backだよ!頭からつま先、前も後ろも詳細に調べて解剖学的な異常を探すよ。
全身診察
1.頭部
頭皮の腫脹、裂創、打撲痕を探します。
毛髪があり難しいので入念に探します。
指を立ててシャンプーするように慎重に探すよ。
2.顔面
まずは視診・触診にて顔面骨の骨折を探します。
次に頭蓋底骨折の所見を探します。頭蓋底骨折の所見はパンダの目(racoon’s eye、black eye)、鼻と耳の髄液漏、鼓膜内出血、Battle徴候(耳介後部の血腫)などです。
口腔内の損傷や眼外傷を見逃しやすいため注意が必要だよ。特に視力障害を本人に確認することを忘れないようにしよう。
3.頸部
問診、視診、触診にて喉頭・気管の損傷や頚動脈の損傷の有無、閉塞性ショックの所見等を探します。
具体的には頚静脈怒張の有無、呼吸補助筋使用、皮下気腫、気管偏位、 頚椎後部正中に圧痛、鎖骨異常を探索します。
ネックカラーを外すタイミングは?
SS の後でX線もしくはCTにて異常が無く、頸椎損傷の受傷機転が無い場合にカラーを外します。
左右に首を動かしてもらい、次に座位で前後屈し、痛みが無いことを確認してから外しましょう。
痛みがあればカラーを継続して、後で精査だよ。
4.胸部
胸部のSSで検索すべき外傷には下記に示すPATBED2Xがあります。これを頭に置きながら精査を進めましょう。
時間とともに病状が変化する可能性があるよ。PSには無かった所見が出現している可能性もあるから注意しよう。
またこの段階で、PSで撮影した胸部レントゲンを詳細に確認することが推奨されています。SSで胸部レントゲンを確認する際のポイントは以下の「気・胸・縦・横・骨・軟・チュ」です。
5.腹部
腹腔内出血や消化管損傷、腹膜炎などの手術が必要な腹部の損傷を探します。
2回目のFASTの結果や採血結果、CTの結果を確認し、free airの存在や出血を示唆する所見がないかを確認します。
6.骨盤・会陰部
バイタルサインに影響を与えない骨盤骨折や、尿路・直腸・外性器の損傷を探します。
直腸診の適応は?
- 骨盤骨折の疑い
- 泌尿器、生殖器、会陰部周囲の損傷の疑い
- 脊椎・脊髄損傷の疑い
これらの場合は直腸診を行うことを忘れないようにしましょう。
7.四肢
問診・視診・触診により四肢の骨折や末梢の拍動や神経障害の有無を確認します。整形外科医コンサルの必要性を討議しましょう。
カメ四肢の左右差を確認し、コンパートメント症候群を見落とさないようにしよう。
8.神経
意識レベルを再度チェックします。この際にPSの際と比べてGCSが2点以上落ちていたら切迫するDと判断します。
切迫するDの意識レベル以外の所見も再度確認しましょう。悪化しているならば、頭部CTや脳神経外科コンサルトの必要性が出てきます。
SSで注意すべきポイントは時間による変化だよ。PSで異常が無かったからと言ってSSでも異常がないとは限らないから注意が必要だね。
9.背部
Front to backです。背部も忘れずに観察しましょう。問診、視診、触診にて、他の部位と同様に診察します。外傷や打撲痕の有無を確認しましょう。
脊椎・脊髄損傷の可能性を考慮
背部を確認する際は、脊椎・脊髄の損傷を否定できない場合はログロールで行います。また重症の骨盤骨折患者では、ログリフト(フラットリフト)にて背部を観察します。
FIXESで最終チェック
FIXESとは、外傷診療に漏れが無いかをチェックするツールです。
下記の項目を確認して、実施していないことがないかを確認しましょう。
まとめ
PSもSSも、全ては防ぎうる外傷死(preventable trauma death)をなくすためです。そのため、外傷診療に関わるスタッフ全員がPSとSSを理解しておくべきだと考えます。
看護師も診療の流れを把握し、異常があった際に迅速に行動ができるように心掛けよう!
参考・引用文献
- 症例から考える重症外傷診療 あなたならどうする. 救急医学,2020年9月号,第44巻10号,へるす出版.
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