Last Updated on 2023年3月29日 by カメさん
こんにちは!看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は5分程度で読めます。
今回は、研修の魅力を高めるためのモデルであるARCSモデルを紹介するよ。
ここで扱う研修とは、院内の集合研修だけではなくて、病棟での勉強会など小さな規模も含まれます。
ARCSモデルを使用して魅力的な研修を作りましょう!
ARCSモデルとは?
今回紹介するのはインストラクショナル・デザイン(lnstructiOnal Design: ID )の一つであるARCSモデルです。
ARCSモデルは、Keller(1984)にて提唱された動機付けに関する学習モデルです。学習者個人の背景・学習課題・学習環境を、授業や教材にシステム的に取り入れて意欲喚起していこうという学習モデルです。
このモデルでは、学習意欲を「注意 (Attention)」、「関連性 (Relevance)」、「自信(Confidence)」、「満足感 (Satisfaction)」の 4つの側面で示しており、それぞれ頭文字をとってARCS(アークス)モデルと呼びます。
心理学の動機付けに関する理論を基盤として作られているよ。
インストラクショナルデザインとは?
インストラクショナル・デザイン(lnstructiOnal Design: ID )とは、教育活動の「効果・効率・魅力」を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのことを指します。
IDには様々な理論があり、代表的な理論を下記の記事にまとめているので興味のある方は参照してください。
ARCSモデルの4つの側面を詳しく解説
それでは、ARCSモデルの4つの側面について詳しく解説していきます。
注意(Attention)とは?
「おもしろそうだ」「何かありそうだ」という学習者の興味・知的好奇心を刺激します。
新奇性(珍しさ)によって知覚的な注意を促します。また不思議なことや驚きによって学習者の探究心を刺激します。
学習者の注意を刺激することは研修のマンネリ化を避ける効果もあるよ!
- 急変を再現した動画で特異的な事例や斬新な映像を取り上げて、知的好奇心を刺激する。
- ベッドサイドでの演習と座学を織り交ぜることで、研修のマンネリ化を防ぐ。
関連性(Relevance)とは?
「この学習は、今の業務に役立ちそうだ」「これを学べば成果が上がるかもしれない」という学習者の親しみや意義を高めます。
学習の将来的価値を知り、学習プロセスを楽しむことで、課題の意義や親しみやすさを感じて関連性が高まります。関連性が高まると自ら学ぶ主体的な学習姿勢が形成されると言われています。
- 実際にあった医療安全に関する事例を提示して対策を計画してもらう。
- 実際にあった急変事例を、急変前数時間のバイタルサインから提示して急変を察知するためのポイントを考えてもらう。
自信(Confidence)とは?
「やればできる」「ここまでできるようになった」という学習者の自信を高めます。
学習のプロセスで成功体験を重ねたり、その成功が自分の努力や工夫によるものと思えれば自信がつきます。課題に対して自分なりの工夫をこらして試行錯誤を重ねて成功した場合に自信はさらに高まります。
自信を高めるためにはゴールの明確化が重要だよ。
- 研修の過程で小テストを行い、学習したことが身に付いていることを実感してもらう。
- 小テストの難易度を徐々に上げて、「ここまでできるようになった」と感じさせる。
- フィジカルアセスメントに関する事前学習を提示した上で人形を使用したフィジカルアセスメントのテストを実施し、成功体験を感じてもらう。
満足感(Satisfaction)とは?
「やってよかった」「できるようになった」という学習者の満足感を高める。
学んだ内容が実際に役に立ったという経験や、周囲の賞賛、努力を無駄にさせない学習環境を構築することで満足感を得ることができます。努力が身を結んだと感じて満足感が得られると、学習意欲が引き出されます。
- 所属部署に合わせたバイタルサイン聴取のスキルアップセミナーや、採血技法のスキルアップセミナーなど、現在の業務に直接活かせる学習内容とすることで、満足感・学習意欲の高まりを感じてもらう。
ARCSモデルは4つの側面毎に、さらに3つのポイントがある
上記で解説したARCSの4つの側面をさらに詳しく解説します。ARCSの4つの側面には、さらに細かいポイントがあります。以下の図を参照してください。
A・R・C・S毎に、さらに3つのポイントがあるよ。
注意(Attention)の3つのポイントとは?
知覚的喚起(Perceptual Arousal)
学習者の興味を引くため何ができるかを考えます。
学習者の注意を引き、注意を持続するためには、新奇で驚きのある研修内容が推奨されます。
探求心の喚起(Inquiry Arousal)
学習者の探求心どのように刺激できるかを考えます。
探究心とは情報を求める行動です。そのため学習者が質問をする機会を提供したり、問題を学習者が作るなどの工夫が有効です。
学習者の主体性に働きかけよう。
変化性(Variability)
学習者の注意を維持するために何ができるかを考えます。
学習者の注意・興味を維持するためには、研修の要素を適宜変化させることが有効です。
関連性(Relevance)の3つのポイントとは?
親しみやすさ(Familiarity)
研修内容と学習者の経験を結びつけるために何ができるかを考えます。
具体的な専門用語や、学習者の経験に関連している事例を用いることが有効です。
病棟看護師を対象とするならば、病棟での詳細な急変事例などだよ
目的志向性(Goal Orientation)
学習者の目的と教材を関連づけるために何ができるかを考えます。
研修の達成目的を提示したり、学習者自身が目的を決めることが有効です。
動機との一致(Motive Matching)
学習者の興味と教材を関連づけるために何ができるかを考えます。
学習者が研修を受講する動機や背景に合わせた教授方略を用いることが有効です。
自信(Confidence)の3つのポイントとは?
学習要求(Learning Requirement)
学習者が成功への期待感を持てるようになるために何ができるかを考えます。
学習者が成功の確率を予想できるように工夫しましょう。 具体的な目標は何か、評価の基準が何かを示すことが有効です。
成功の機会(Success Opportunities)
研修により、学習者が自分の能力に対する自信を高めるために何ができるかを考えます。
学習中や学習後に、学習者が成功の体験ができるような挑戦レベルの試験等を提供することが有効です。
コントロールの個人化(Personal Control)
学習者が、自分の成功が自分の努力によるものであると確信できるために何ができるかを考えます。
学習者が自身の学習をコントロールする機会を与えたり、フィードバックフィードバックを与えることで、成功の原因が自分自身にあることを理解できるように支援することが有効です。
満足感(Satisfaction)の3つのポイントとは?
内発的な強化(intrinsic motivation)
学習経験の本来の楽しみを促進するためには何ができるかを考えます。
学習者が所属する職場に似た状況で、新しく習得した知識や技能を使う機会を与えることが有効です。
外発的報酬(extrinsic motivation)
学習者が成功した際に、どのような報酬を提供するかを検討します。
研修において学習者が成功した際に、称賛など情意的フィードバック与えることが有効です。
公平さ(Equity)
学習者が公平に扱われていると感じるためにどうすれば良いかを考えます。
研修課題の評価基準を常に一定に保つことが有効です。
なぜ魅力的な学習が必要なのか?
上記のポイントを押さえて魅力的な研修を作り、「もっと知りたい・学び続けたい」と思うことにより研修終了後にも自分で学び続けることに繋がります。
研修終了後も学び続けることができるような支援をするためにも、魅力的な学習を設計する必要があるよ。
自分で学び続ける学習 = 自己調整学習
自己調整学習(Self-regulated Learning)とは「学習者が自身の学習過程の中で、メタ認知的・動機的・行動的に積極的な関与者である学習(Zimmerman,2006)」と定義されます。
魅力的な学習は、自律的に学び続ける学習である自己調整学習を促します。
ARCSモデルの活用結果を報告した論文
論文①:災害看護に関する論文
この研究では、ARCSモデルを活かして研修を設計・実施した結果を報告しています。研修の内容は災害看護に関するものです。
この研究において、ARCSモデルを活用して良かったと感じた点は、R:関連性において自分の施設について考えてもらっていたところです。関連性についてはアンケートでも良好な結果であり、今回の研修が今後の学習に繋がることが期待されます。
ARCSを研修設計時から活用することで、研修の評価もARCSに沿って実施できるよ。
論文②:急変シミュレーションに関する論文
これは急変シミュレーションの教材開発の研究で、評価の際にARCSモデルを使用しています。
この研究の結果では、評価した教材は「注意」や「関連性」は高いが、「自信」や「満足感」が低いという結果を報告しています。
教材を開発する上では、「魅力的な教材であるか」「今後の学習に繋げることのできる教材であるか」が重要なポイントです。この研究のように、教材を作る段階からARCSによる評価を行うことが重要だと考えます。
ARCSの内容は当たり前に感じるかもしれないけど、当たり前のことを理論に基づいて行うことが重要だよ。看護の実戦知に科学的根拠を付帯しよう!
ARCSモデルは進化している?ARCSーVモデルについて解説
ARCS-V モデルはARCSモデルの枠組みに、新たに意志 (Volition)を加えた拡張版動機付けモデルです。ARCS -VモデルはKellerが2004年に提唱しました。
意志(Volition)は、「目標を達成するために努力し続けることに関連する行動と態度全般を示 す概念」と定義されています。つまり自己制御力です。
学習への意欲がそれほど高くない場合に、妨害に打ち勝つために意志の力が必要と言われています。学習には様々な障害・妨害があります。それでも学習を続けるためには自己制御力を高めた自己調整学習方略が必要となります。
学習への意欲 (Motivation)とは?
意欲とは「人々が何を望み、何を選んで行い、そして何を行うことに全力を傾けるかを一般的に意味する」と定義されています。
つまり、「なぜやっているのか」ということが明確である場合は意欲が高いと言えます。意欲が高い場合は、妨害・障害への抵抗力が強いとされます。
まとめ
私が成人学習においてポイントだと思うことは、仕事との関連性があること(関連性)と、成功体験が経験できること(自信)です。
仕事との関連があり、職場で使えるなと思えたら、学習者の興味は倍増するでしょう。また、忙しい成人学習者の興味を惹きつけるには肯定的な経験が大切です。学びを肯定的に受け止めた経験は自分で学ぶ原動力になります。
学習者の動機付けを高め、魅力的な研修を作成するために、ARCSモデルで「教えないでも自ら学べる学習者」を育てよう!
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参考・引用文献
- KELLER,J.M.(1984). The use of the ARCS model of motivation inteacher training. InK.E.SHAw(Ed.),Aspectsofeducational technology volume XVII: StaffdevelQpmentandcureertrpclatingt KoganPage, England
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