Last Updated on 2023年3月29日 by カメさん
こんにちは!看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は10分程度で読めます。
今回はインストラクショナルデザイン(ID)の概要や、関連する理論について解説するよ。
今までの記事で、インストラクショナルデザインに関する理論を色々紹介してきました。今回は、それらの理論を踏まえてインストラクショナルデザインの概要をまとめたので紹介します。
インストラクショナルデザインとは「教育活動の効果・効率・魅力を高めること」
インストラクショナルデザインとは、教育工学研究の1つの分野で、Instructional Designの頭文字を取ってIDと呼ばれることが多いです。
鈴木克明先生(2006)はインストラクショナル ・デザインについて「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための 手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセス」と述べています。
つまり簡単に言うと、研修等の教育活動の設計方法のことです
ちなみに鈴木 克明先生とは熊本大学 教授システム学研究センター長・教授で日本におけるインストラクショナルデザインの第一人者だよ。
教育活動の「効果・効率・魅力」とは?
インストラクショナルデザインの目的が「教育活動の効果・効率・魅力を高めること」であることは理解できたと思います。それでは、教育活動の効果・効率・魅力とは何かをそれぞれ解説していきます。
教育活動の「効果」とは?
教育活動の「効果」とは、事前に設定した目標に学習者が近づいた度合いです。つまり、今回の教育活動により、どのくらい学習のゴールに近づくことができたかということです。
より多くの学習者が、よりゴールに近づくことができたら、効果的な学習活動と言えます。
教育活動は出入り口の設定が重要!ギャップ分析を活用しよう
効果的な学習活動では目標の設定が重要であり、その時に役立つのがギャップ分析です。
ギャップ分析とは教育の出入り口を明確化することです。
教育の入り口とは学習者の現状であり、教育の出口とは教育活動の目標です。
ギャップ分析により、現状と目標の差を分析することが出来たら、ギャップを埋めるための教育方法を考えて行きましょう。
インストラクショナルデザインではゴールから逆算して教育活動を設計するよ。だから逆向き設計と呼ばれることもあるよ。
例えば病棟での研修を考えます。急変対応に関する研修を行いたいと考えた場合に「急変シミュレーションをやろう!」と言う思考は、教育方法から考えてしまっています。
まずはギャップ分析にて出入り口を明確にしましょう。
新人対象の研修であれば、まずはどのくらいの基礎知識があるかをテストなどで確認します。その結果、基礎知識が足りないので有れば、「基礎知識の充足」を目標として勉強会などを行います。
また、基礎知識は十分で、次のステップが必要なのであれば、「実践的な技術の獲得」を目標として急変シミュレーションを行いましょう。
教育活動の効果を高めるためには現状やニーズの分析を重要視しよう!
教育活動の「効率」とは?
教育活動における「効率」とは、教育の効果を落とすことなく、コスト削減を実現することです。「人・金・もの・時間」の削減を目指します。
教育の費用対効果(コスト効果とも言われる)を高めることだよ!
IDを活用することにより、教育効果を保ちながら、より安く、より短期間に、より労力をかけずに目標を達成することができます。
上記と同様に病棟での急変対応の教育活動を考えます。
効率を高めるためには事前の設計が重要となります。事前に教育対象や教育内容・教材を細かく設定します。
対象 | 新人看護師5名 |
内容 | 急変シミュレーション(BLS) |
教材 | BLSシミュレーション用の人形 |
研修担当者 | 2名 |
時間 | 30分(勤務中) |
場所 | 病棟処置室 |
このように事前に詳細な検討を行うことで、教育効果を下げることなく適切な「時間、モノ、労力」教育活動を設計することができます。
勤務中の学習を計画する際は「学習時間中も常に給料が発生している」という感覚を持つことが重要です。
教育活動の「魅力」とは?
教育活動の「魅力」とは、教育活動終了後に学習者が「もっとやりたい」と思える度合いです。つまり、学習する意欲が継続できるように設計することが重要です。
自ら学び続ける人材を育成するためにも、IDを活用して学習意欲を高める工夫をして行きましょう。
引き続き、急変対応に関する教育活動について考えます。後述するARCSモデルでも述べますが、成人学習の学習意欲を高めるためには、学校の授業とは異なる工夫が必要となります。
成人学習者は普段の業務と関連づけることが重要です。そのため、所属する部署で起こる可能性のある事例をもとに研修を展開することで、学習者の関心を高め、学習意欲を高めることができます。
例えば「先日○○病棟で入院していた患者が急変した際の事例を基に急変シミュレーションを行います」などのように、普段の業務と関連づけると「魅力」が高まります。
また、できるようになったという自信をつけてもらうことも重要です。
例えば、BLSのシミュレーションにおいて、適切なレベルの練習を複数回設定することにより「できた」と感じ、満足感が上がることで、学習意欲の向上が期待できます。
「できるようになった!」「もっとやりたい!」と思える研修を目指していきましょう。
インストラクショナルデザインの理論
ここまで解説してきたようにインストラクショナルデザインの目的は、効果・効率・魅力に高い教育活動を設計することです。
この目的を達成するために様々なID理論が提唱されています。今回は下記に記載の理論について紹介します。
理論 | 説明 |
---|---|
IDの第一原理 | ID理論の統合を目指したもの |
ADDIEモデル | 効率的な教育活動を促進する理論 |
ARCSモデル | 魅力的な教育活動を促進する理論 |
ガニエの9教授事象 | 効果的な教育活動を促進する理論 |
IDの第一原理
この理論は効果的な教育活動を促進する理論だよ
成人学習では、教育と成長のサイクルにより継続した学習の循環が生まれることが重要です。そのための望ましい学習支援を構築するための要素を総合的に示した理論がメリル(2002)の「IDの第一原理」です。
この理論は、近年の IDモデルに共通して見られる特徴をまとめて、ID理論の統合を目指したものです。「問題」「活性化」「例示」「応用」「統合」という5つの要件が教育設計に反映されていることが重要だとされています。
「IDの第一原理」についての詳細は下記の記事を参照してください。
ADDIEモデル
この理論は効率的な教育活動を促進する理論だよ
学習支援を設計するために、どのようなプロセスで設計を進めるかを示したのがADDIEモデルです。ADDIE(Analysis:分析、Design:設 計、Development:開発、Implementation:実施、Evaluation:評価)の頭文字に沿って教育設計を行います。
ADDIEモデルでは、前述の学習支援設計における入口・出口の考え方が重要となります。また、PDCAサイクルのように分析・評価・実施を繰り返すことも特徴の一つです。
教育計画を立てて終わりではなく、常に評価・分析して、より良いものへと改善しましょう。
PDCAサイクルとは?
Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルを繰り返し行い、継続的な業務の改善を行う方法です。様々な分野で活用されており、ADDIEモデルは教育のPDCAサイクルとも言えます。
「ADDIEモデル」の詳細は下記の記事を参照してください。
ARCSモデル
この理論は魅力的な教育活動を促進する理論だよ
習熟には学習を継続させることが重要です。学習を継続させるためには魅力的な学習支援が必要です。そこで役に立つのが、ケラー(1983)のARCSモデルです。ARCSモデルは学習者の動機づけに着目した理論です。
ARCSモデルは「注意喚起(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の4つの頭文字を取ったものです。
ARCSモデルを活用して学習者の学習意欲を喚起することで、学習者が能動的に学習に取り組むようことができるようになります。
動機付けとは?
動機付けとは、目的や目標などによって行動を起こし、それを持続させる機能のことです。つまり、「やる気」に働きかけることです。「やる気」は「モチベーション」とも言います。 動機付けには「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の二つがあるとされています。
- 外発的動機付け:行動の要因が評価報酬賞罰などの外部からに人為的な刺激による動機付け
- 内発的動機付け:本人の内面に起こる興味関心意欲による動機付け
内発的動機付けを高めることが学習継続の鍵と言われています。内発的動機付けを高めることで、学習意欲が高まり、学習者が進んで継続的に学習に取り組むことができるようになります。
ARCSモデルはこの学習における動機付けを支援するよ
「ARCSモデル」の詳細は下記を参照してください。
ガニエの9教授事象
この理論は、効果的な教育活動を促進する理論だよ
前述の「IDの第一原理」と同様に、学習支援設計に必要な要素をまとめた理論として「ガニェの9教授事象」があります。ちなみに、この理論を提唱したガニェはIDの生みの親とも言われています。
この理論は、説明の方法や作業を工夫することで効果的な学習活動を支援できると考え、「外的条件(外側からの働きかけ)」に着目しています。
ガニェは9つの外的条件(➀学習者の注意を喚起する②学習者に目標を知らせる③前提条件を思い出させる④新しい事項を提示する⑤学習の指針を与える⑥練習の機会を作る⑦フィードバックを与える⑧学習の成果を評価する⑨保持と転移を高める)をまとめて理論化しています。
従来の講義形式の授業や勉強会では、「9 つの外的条件」のうちの「④新しい事項を提示する」しか該当していないことがよくあります。 このことからも、効果的な学習支援を達成するためにはIDを活用して理論的に学習設計を行うことが重要であることが分かります。
「ガニェの9教授事象」の詳細は下記を参照してください。
インストラクショナルデザインに関連する理論
IDのモデルでは無いけれど、IDを理解する上で重要な理論を紹介するね
理論 | 説明 |
---|---|
経験学習 | 実際に経験した具体的な事柄から学習する理論 |
カークパトリックの4段階評価 | 学習効果がどの程度であるかを理論的に測定するためのモデル |
経験学習
経験学習とは、実際に経験した具体的な事柄から学習する過程を示したものです。経験を振り返り、次に活かしていく循環のプロセスを理論化したものです。
経験学習に関する理論はギブスのリフレクティブサイクルなど複数ありますが、コルブによる「経験学習モデル」が有名です。コルブはレヴィンやピアジェなどの経験主義者らの主張を発展させ理論をまとめました。
コルブの経験学習モデルは、①具体的経験→②省察的観察→③抽象的概念化→④能動的実験の4つのプロセスを循環します。
上記のプロセスを繰り返すことによって、学びを獲得していくモデルです。コルブは教育理論を実践家でも使えるモデルとして単純化しました。
「経験学習」の詳細は下記を参照してください。
カークパトリックの4段階評価
学習効果がどの程度であるかを理論的に測定するためのモデルとして、カークパトリック(1959)の 4 段階評価モデルがあります。
学習者の教育に対する満足度を示す「反応(Reaction)」、テストにより知識や技術の定着を評価する「学 習(Learning)」、教育の成果が現場でどのように行動変容につながったかを評価する「行動 (Behavior)」、教育が組織全体にどのような影響を及ぼしたかを評価する「結果(Result)」の4段階にて評価します。
ID における学習効果は個人の知識・技術など狭い視野で考えず、組織の業績への貢献など常に広い視点から考えることが重要です。その際に、単なる事前事後テストではなく、「カークパトリックの4段階評価」により理論的に評価することをおすすめします。
「カークパトリックの4段階評価」の詳細は下記を参照してください。
まとめ
インストラクションとは「学習者の学習を助けること」です。よく教育で用いられるティーチングは「教えること」でありインストラクションの一部と考えることができます。
つまりID における教育とは、あくまでも学習支援の一環です。IDの考え方では、学習における主役は教育者ではなく学習者であり、学習者を中心とした学習設計が重要とされています。
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