Last Updated on 2023年7月30日 by カメさん
今回は質的データの分析について解説するよ。
この記事は10分程で読めます。
今までの記事では、「面接法」や「参加観察法」など質的データの収集方法を解説してきました。今回は、そこで得られた質的なデータをどのように分析するかを考えてみたいと思います。
「面接法」や「参加観察法」など質的データの収集方法について詳しく知りたい方は、下記のリンクを参照してください。
【面接法とは?】看護研究の悩みを解決「インタビュー調査で質的研究をしよう!」
【参加観察法とは?】看護研究の疑問を解決「観察法でデータ収集しよう」
これから、質的研究(質的データ分析)の目的や概要を説明した上で、データを分析する具体的手順を解説します。
質的研究(質的データ分析)の概要
まずは、質的データ分析の概要について解説します。YouTubeでも解説しているので良かったら参照してください。
質的研究(質的データ分析)の目的とは?
質的研究を行う5つの目的を以下の表にまとめています。
演繹的な研究(量的研究)は仮説が必要となるよ。それを質的研究で発見できるといいね。
質的研究(質的データ分析)の全体像
質的研究にてデータを分析する流れは、以下の図の5つの段階に分けることができます。
質的研究の分析はフィールドに出入りする中で進行します。つまり、フィールド内でのデータ収集とフィールド外での分析を繰り返す過程で、質的データの分析が進行し、新たな理論やモデルの発見へと至ります。
データ収集の準備をして、データ収集を行いながら分析して、新たな考え方を発見することが、質的データ分析全体の流れだよ。
①データの組織化(事前準備)
明らかにしようとする現象のデータを漏れなく収集するための仕組みを検討します。
新しい発見をするためには、全てのデータを収集し偏見なく分析することが必要です。会話のデータであれば逐語録が有用です。逐語録を作成するためには会話をICレコーダーで録音するための準備が事前に必要となります。
逐語録については下記で解説するよ
また、研究によってはコーディングスキーマと呼ばれるものを事前に準備することがあります。
コーディング・スキーマとは?
事前に準備したコードに基づいて、逐語録等を記号化して、分析に利用する方法です。例えば、コーディングスキーマとしてカテゴリーを5つ用意して、カテゴリーに分類された発話の数を量的に分析するなどです。
下記は、コーディングスキーマを活用した論文です.
下記の図が、この論文におけるコーディングスキーマです。9個のカテゴリーと発話例を提示されていますので、一部紹介します。
そして、発話を上記のコーディングスキーマで分類して、発話数を量的に分析しています。
コーディングスキーマの注意点は、せっかくの豊かな質的データを使った分析であるのに、コード化されたカテゴリ-に囚われることで、新しい発見を逃す可能性があるということだよ。
②データ収集・③規則性の探索(分析)
フィールドでデータ収集を行いながら分析を行います。フィールドで観察されたデータから規則性やパターンを読み取ります。
質的データは抽象的なものが多いから、研究テーマによっては、図や絵・写真を用いて規則性を分析することも有用だよ。
④探索結果の妥当性の確認
収集したデータが本当に信頼がおけるものなのかを確認します。反復的な観察や、複数の研究者による意見の集約により妥当性を確保します。
⑤全体的構造化(統合)
個々のデータを全体へと統合し、新たな理論やモデルを検討します。
質的研究は、新しい見方・考え方の発見を探求する営みと言えるよね。
質的研究でデータを分析する具体的手順
次に質的データ分析の具体的手順を解説します。質的データ分析の具体的手順についてもYouTubeで解説しているので良かったら参照してください。
質的データ分析の一般的な流れを以下に示します。
質的なデータをカテゴリ化して整えることで、規則性を探索することができ、新たな発見が導かれます。
僕が普段使っている、逐語録・コーディング・カテゴリ化を行うフォーマットは下記からダウンロードできるので、良かったら使ってください。
①逐語録作成の例と、注意すべき5つのポイント
質的データを分析するための準備として、まずは逐語録を作成します。
逐語録とは、インタビュー内容などを録音したものを文章にしたものです。
下記の図は、上記のフォーマットを使った架空のインタビューの逐語録です。架空のインタビューテーマは、「病院内集合研修における研修企画者の実態」です。
それでは、逐語録を作成する上で注意するべき5つのポイントを解説します。
②コーディング・③カテゴリ化の例と、注意すべき7つのポイント
逐語録が完成したら、次に逐語録に対してコーディングとカテゴリ化を行います。
文章を構成する概念を「コード」と呼びます。つまりコーディングとは、文字データに対して「コード」を割り当てる作業です。
そして「コード」の上位概念が「カテゴリ」です。つまりカテゴリ化とは、「コード」から抽象化のレベルを上げて、「カテゴリ」を作成する作業です。
コーディングとカテゴリ化は、逐語録に小見出しを付けることで、逐語録の情報を圧縮する作業だよ。
上記の架空のインタビューの逐語録をコード化、カテゴリ化したものが下記の図です。
それでは、コード化・カテゴリ化する上で注意するべき7つのポイントを解説します。
コーディングとカテゴリ化の次は? SCATの紹介
コーディング・カテゴリ化の次の分析方法について解説します。YouTubeでも詳しく解説しているので良かったら参照してください。
ここでは、コーディングとカテゴリ化を実施した後の分析方法の1つであるSCATを紹介します。
SCAT(steps for coding and theorization)とは、大谷尚(2007)によって開発された質的データの分析方法です。
難解な質的研究法に対して、着手しやすい手法として開発された方法だよ。
SCATで分析する意義は?
- 分析手続きの明示化
- 分析の初段階への円滑な誘導
- 分析過程の省察可能性と反証可能性の増大
- 理論的コーディングと質的データ分析の統合
SCATは4つの手順で逐語録の抽象度を高めて、最終的にストーリーラインおよび理論を構成する方法です。
以下が、SCATの4つ手順です。
上記のSCATの手順を、さらに細かく9つのStepに分けて解説します。
「テーマ・構成概念の記述」・「ストーリーラインの記述」とは?
テクストに記述されている出来事に潜在する意味や意義を記述したものです。記述されている出来事全体を表すような、見出し・カテゴリを記載してください。次に、記載したテーマ・構成概念について因果関係を図にするのがストーリーラインの作成です。
SCATによる理論の記述は、一般的な理論とは異なる
大谷 (2008)は、小規模なデータから一般化可能な理論を得ることはほぼ不可能であると述べています。SCATで扱う理論とは、「一般的・普遍的原理」ではなく、「このデータ分析から言えること」程度です。
SCATに関してもフォーマットを作成したので、良かったらダウンロードして使ってください。
SCATを用いた論文を紹介
論文1:営業実習の週報から見る新入社員の学び方の学びと指導員によるその支援-質的データ分析手法SCATを用いた一事例分析-
この研究は、新入社員の「学び方の学び」と「その指導にあたった指導員の支援方法」について分析した研究です。
新入社員研修で用いる週報(記述データ)を、新入社員と指導員とが対話する学習環境として捉えてSCATにて分析しています。
抽出したテーマ・構成概念からストーリラインを作成し、「学び方の学びの経験学習サイクルを転回する実習員と指導員の相互作用モデル」というモデルを作成しています。
この研究では理論記述からモデル化まで実施しているんだね。
モデル化とは?
モデル化とは、記述された理論を視覚的に理解できる形で提示することです。モデル化をすることで個々の事象を見る見方が変わり、新たな仮説や実証を発展的に生み出していくことが可能だと言われています。
モデル化により分析結果から記述された理論を視覚的に表示することは、他者に伝達するための効果的な手段となるよ。
論文2:大学生の災害ボランティアへの参加動機の質的分析と参加推進の方策に関する一考察
この研究は、災害ボランティアに参加した学生に対して行ったアンケート調査をSCATにて分析した研究です。
抽出したテーマ・構成概念から「利他の心と潜在的な興味を持つとともに,活動を 通じた自己成長への期待を抱いている」「震災による経験が影響している」などの理論を記述しています。さらに、記述した理論を基にして「学生に対して災害ボランティア参加を推進する方策」を検討しています。
理論の記述だけで終わらずに、理論を踏まえた方策まで検討した論文だね。ストーリーラインの作成・理論の記述の過程を踏むことで、現象を記述するだけではなく、現場で使える内容まで検討できるのもSCATの良いとこだね。
SCAT以外の質的データの分析の種類を紹介
質的データ分析の手法にはSCAT以外にも沢山あります。ここでは、上記で紹介したSCAT以外の一般的な分析方法を紹介します。
ちなみに質的データ分析の種類はここで紹介する以外にも沢山あるよ。実証主義や批判理論、構成主義など、研究者の哲学的背景により異なると言われているよ。
分析的帰納法
質的研究の分析方法として最も一般的であり、基礎となる分析方法だと言われています。
下記の3つのStepを経ることで、最終的な仮説を導きます。
事例の選択が鍵となる
この手法で分析する場合は、事例の適切な選択が、分析結果の信頼性へと繋がります。そのため、事例選択の根拠を明確にすることが重要となります。
グラウンデッド・セオリー(理論的コード化)
収集したデータから理論を構築する方法論であり、社会学者のGlaserとStrauss(1967)により提案されました。現在では、看護研究における中心的な手段の1つとなっています。
データ収集と並行して分析が行われ、データ収集・分析の過程を繰り返されることにより理論が構築されます。
これを理論的標本抽出と呼ぶよ
グラウンデッド・セオリーは一般的に、下記の9つのStepで行われます。
基本的に参加観察法になるけど、観察者は主体的な実践者にならないように注意が必要だよ。
グラウンデッドセオリーによる理論構築の背景にあるのが、シンボリック相互作用論
シンボリック相互作用論はBlumer(1969)により提唱されました。人間は能動的に意味を構成する主体であり、その意味は社会的なコミュニケーションの文脈の中で構成されるという理論です。
グラウンデッドセオリーは手順を守ることが重要
グラウンデッドセオリーは厳格な方法論に基づいています。そのため、定められた方法論に沿ったデータの収集や分析の過程を踏むことが重要となります。
内容分析
これは記述データを組織化するための手法で、看護研究で多く用いられています。
記述データとはフィールドノートなどの記録物や日記、手紙、書物、論文、会話の内容などです。これらの記述データを客観的・系統的・数量的に表現する手法が内容分析です。
質的データを事前に設定した内容分析の単位に振り分けることで、量的に表現することができます。
量的に分析するから、科学的妥当性は確保しやすいと言われているよ。
内容分析は、一般的に下記の4つのStepで実施します。
前述の、データの組織化で説明したコーディング・スキーマも分析単位の1つだよ。
内容分析は帰納的推論なのか?
質的データを量化して分析することは、帰納的推論のあり方に反するという意見もあります。内容分析では、事前に分析単位を設定します。しかし、分析単位は事前に決められるものではなく、質的データ分析の過程で決まるものではないかという指摘があります。
質的研究の妥当性を確保するためにはどうしたら良いの?
質的研究は、量的研究と異なり定型的な方法がありません。データ収集に関しても、測定用具が研究者自身であり、データの質が、研究者の技量や研究テーマへの精通度に左右されます。そのため、質的研究はデータの妥当性が確保されない可能性が高いです。
データの妥当性が低いと根拠として活用できません。
質的研究も量的研究も、研究の一連の流れとして重要だよ。量的研究だけでなく質的研究の妥当性を高める努力をしよう。
質的研究の妥当性を高めるためにできる方法として「トライアンギュレーション」という方法があるので紹介します。
トライアンギュレーションとは?
これは、複数の視点を用いることで、より豊かで妥当な解釈を促進する手法です。つまり質的データの妥当性を確保していくための手法だと考えてください。
トライアンギュレーションにおいて、複数の視点を確保するためには以下の5つのポイントについて考えることが重要です。
トライアンギュレーションと三角測量
トライアンギュレーションは三角測量に由来しています。三角測量とは三角形の一辺と両端の角度が分かれば三角形の面積が求められるというものです。そして複雑な土地の面積を複数の三角形により求めていきます。
つまり三角測量の考え方を参考にして、質的研究における複雑な現象を複数の視点から捉えて妥当性を確保しようとする考え方がトライアンギュレーションです。
まとめ
質的データ分析は、量的データの分析のように基本的事項がありません。なぜなら、質的研究が、新しいものを発見しようとする営みだからです。
基本的事項がないことは質的研究のデメリットの1つです。定型的な研究方法がないとデータの妥当性が確保されない可能性が高くなります。しかし今回紹介したような方法論を実践することで、データの妥当性を高めることができます。質的研究の方法論を理解した上で問題の本質に迫り、新たな発見を目指しましょう!
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