Last Updated on 2023年6月25日 by カメさん
こんにちは!看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は5~6分程度で読めます。
今日は看護師の教育について話すよ。
教育計画や研修計画を立案する際は、闇雲に行うのではなく、システム的なアプローチが重要となります。今回はシステム的な教育アプローチの代表である、ADDIEモデルについて解説します。
システム的な教育アプローチとはPDCAの応用!
システム的アプローチとは、PDCA(plan,do,check,action)のサイクルが有名だと思います。
このPDCAのサイクルを教育に応用したものが今回紹介するADDIEモデルです。
ADDIEモデルとはシステム的な教育計画
ADDIEモデルはインストラクショナルデザインのモデル(IDモデル)の一つです。
インストラクショナルデザインとは?
インストラクショナル・デザイン(lnstructiOnal Design: ID )とは、教育活動の「効果・効率・魅力」を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのことを指します。
IDには様々な理論があり、代表的な理論を下記の記事にまとめているので興味のある方は参照してください。
ADDIEモデルは「Analysis:分析」「Design:設計」「Development:開発」「implementation:実施」「Evaluation:評価」の頭文字を取ったものです。
この5段階のプロセスをシステム的に繰り返すことが重要だよ。
ADDIEモデル = システム的な教育アプローチ
システム的なアプローチのポイント:
目標を定め、評価方法を決めてから実現方法を考えて計画し、実行し評価を行いながら徐々に改善していくプロセスである
現場では、教育計画を行うこと自体が目的化することが多々あります。「上司からの命令だから仕方なく」などの意見もあるかもしれませんが、せっかく教育を行うのであれば、「何かを学ぶことのできる教育計画」を立ててみませんか。
ADDIEモデルの5段階について詳しく解説!
それではADDIEの5段階についてそれぞれ解説していきます。
「Analysis:分析」とは教育設計前の準備
この段階では、教育設計をする前の分析を行います。
教育計画を作り始めたい気持ちを抑えて、まずは分析をしましょう。
ここが一番大事だよ!
ニーズを分析してテーマを決定する
まずは教育テーマの必要性を吟味します。
上司から、「ーのような教育をしてくれ」と頼まれることもあると思います。しかし、そのテーマが現場のニーズと乖離していることは多々あります。
本当に現場や対象者にとって必要な教育テーマなのか、ということを検討しましょう。
ニーズ分析では対象者に直接ニーズを確認することも有用です。
対象者の分析をする
対象者分析では、どんな人に教えるかを検討します。
その対象者がどの程度教育テーマに関する知識を身に着けているのかについても確認しましょう。これはゴールの設定や教材の開発においても重要になります。
設計の段階に移る前に、事前のアンケートや聞き取りなどで対象者の知識状況を把握することでゴールが明確になります。
研修のゴールを分析する
ここでは教育が終わった際に、どのようになっていたら成功かを検討しましょう。
ゴールの設定としてはGIOやSBOに沿って設定するのが一般的です。
GIOとSBOを設定する際には、以下の3つのポイントを押さえて具体的に検討しましょう。
①目標行動:何をできるようになるのか
②評価条件:どんな条件でできるようになるのか
③合格基準どの程度できるようになるのか
それぞれ具体的に考えておくことで、教育効果の評価が明確になります。
教育の分析には入口(対象者分析)と出口(ゴール分析)を明確にすることが大切だよ。
GIO・SBOとは? GIO (General Instruction Objective):一般目標 「~を理解する、修得する」といった概念的目標 SBO (Specific Behavioral Objectives) :行動目標 「~を説明する、測定する」などの対象者に期待される具体的な行動目標 医学教育において使用されてた考え方であり、現在は看護学や薬学などの大学教育でも活用されている。SBOは測定可能な目標であり、抽象度はGIOの方が高い。個々のSBOを達成した際の包括的な成果がGIOである。
「Design:設計」とは具体的な教育計画のこと
分析した内容を基に具体的な教育計画に移りましょう。ここは重要かつ楽しい段階です。
何を教えるのかを「構造化」する
教育計画は、対象者がゴールに至るためには(対象者分析&ゴール分析を参照)、どのような学習項目が必要かを検討します。
構造化する際には、学習項目を盛り込みすぎないように注意します。
教えたいことが山ほどあると思いますが、ぐっと抑えましょう。
どの順番で教えるのかを「系列化」する
学習項目が決まったら、次は学習項目の順番を考えましょう。
学習者が効率的に学ぶためには、教えたいことの順序が大切です。どちらから学ぶべきなのかを検討します。
身体検査と身体評価の2つの項目を教えたいと思ったら、身体検査の方法を先に教えた方が良さそうだね。
構造化と系列化の際に参考になる考え方に、学習支援のプロセスを提示したガニエの9教授事象というものがあります。
ガニエの9教授事象とは? 学習の準備から始まり、新しいことに触れ、自分のものにし、実践に移していく学習支援のプロセス。以下の9つの段階がある。 「導入」: ①学習者の注意を獲得する②目標を知らせる③前提条件を思い出させる 「情報開示」: ④新しい事項を提示する⑤学習の指針を与える 「学習活動」: ⑥練習の機会を作る⑦フィードバックを与える まとめ:⑧学習の成果を評価する⑨保持と転移に努める
どう教えるのか「教授方略」を考える
教える項目と順番が決まったら、次はどのように教えるかを検討します。具体的な教材やツールに関しては、次の段階の「Development:開発」で検討します。
教授方略=どのような形式で教えるか
例えば、講義やグループワーク、実習、レポート作成など様々な形式があります。大事なことは、講義形式ばかりに偏りすぎないことです。講義形式も有用ですが、学習にはインプットだけでなくアウトプットも重要です。
学習項目に合わせた教授方略を検討しましょう。ディープアクティブラーニングという考え方もあるので興味がある方は参考にしてください。
ディープアクティブラーニングとは? 学習の形態に焦点を当てるアクティブラーニングと学習の質や内容に焦点を当てるディープラーニングを組み合わせて作られた概念。
「Development:開発」とは教材やツールの開発のこと
設計で検討した学習項目や教授方略に合わせて教材やツールを作成します。例えば講義形式であれば、講義資料や発表用のスライドなど。グループワークや実習であれば、記録用紙などです。
魅力的な教材開発や教育計画のための理論としたARCSモデルというものがあります。
理論を用いて作成することが、効果的で効率的で魅力的な教育を達成する近道だよ!
ARCSモデルとは? ①注意(Attention) 学習者の興味を惹き、「面白そうだ」と思わせる ②関連性(Relevance) 学習内容と自身の業務などを関連づけることで、親しみを持たせる。「やったら意味がありそうだ」と思わせる。 ③自信(Confidence) ゴールを明示して、成功の体験を与える。「やればできそうだ」と思わせる。 ④満足感(Satisfaction) 学習者に肯定的なフィードバックを行う。「やってよかった」と思わせる。
「implementation:実施」とは実際に教育を実践すること
今までの3つのステップで検討した内容を実践します。
教育を実践するだけでなく、対象者の様子や学習状況も観察しましょう。ここで観察した内容を基に対象者の満足感や、教授方略や教材・ツールの妥当性の評価をしましょう。
「Evaluation:評価」とは教育実践後に評価をすること
実践した教育を評価しましょう。
「implementation:実施」の際の観察による評価に加えて、カークパトリックの4段階評価モデルを活用しましょう。どのレベルの教育評価を行う必要があるのかを考えながら評価指標を検討しましょう。
看護の研修でよくある満足度の評価は、カークパトリックで見るとレベル1の評価だね。
またADDIEモデルにおいて重要なことは、ここで得た評価を次の教育計画に繋げることです。ここで得た評価を基に、Analysis、Design、Development、Implementのそれぞれの段階を改善していきます。
カークパトリックの4段階評価モデルとは? レベル1(反応) 受講者の反応を評価する 受講者へのアンケート調査など レベル2(学習) 受講者がどのような学習ができたかを評価する 知識テスト、実技テストなど レベル3(行動) 学んだことを職場でどのように活かして行動したかを評価する フォローアップ調査、所属上長へのアンケート調査など レベル4(結果) 企業業績にどのような影響を及ぼしたかを評価する ROI(費用対効果)、インデント・アクシデント数、患者満足度調査など
ADDIEモデルの看護師教育での活用例です
現場でのOJTにADDIEモデルを使用した例を紹介します。
Analysis:分析
「BLSのトレーニング」を「病棟スタッフ全員」に実施すると決定。
「ゴール」は全スタッフが何も見ずにBLSの流れを実践できることとした。
Design:設計
「学習項目」はBLSの基本的知識と技術として、「教える順番」はBLSの知識→技術の順とした。「教授方法」は、BLSの知識は資料の配布による自己学習で技術は小グループによるシミュレーション教育とした。
Development:開発
自己学習用の教材と、シミュレーション時のシナリオを記載した資料を作成した。
Implement:実施
場所は病棟で、時間は深夜勤務後に実施した。
Evaluate:評価
「レベル1」の対象者アンケート、「レベル2」の知識確認テスト、「レベル3」のフォローアップ調査を実施した。
評価の結果、満足度は高いものの技術の定着が難しいとの結果となり、再分析を行った。
次年度の研修では、BLS技術の教授方略を小グループによるシミュレーション教育ではなく、シナリオを使用しない技術のみに特化した教育方法に切り替えることとした。
まとめ
どんなコンテンツが必要かを見極め(分析)、どのように教えるかを考え(設計)、教材を作成し(開発)、実際に教育を行い(実施)、その結果を評価しながら必要な修正を行う(評価)という5段階のシステム的なプロセスを繰り替えしていくことで、現場での教育は改善すると思います。
短期スパンで結果を出そうとしすぎず、長期的に改善を繰り返しながらより良い教育を作り上げていこう!
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引用・参考文献
- 中原淳(2006).企業内人材育成入門 人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ.ダイヤモンド社,東京.
- 鈴木克明(2015).研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイン.北大路書房,東京.
- 鈴木克明(2005).e−Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン.日本教育工学会論文誌,29(3),197-205 .
- 柴田喜幸(2014).特集:多職種連携教育Ⅲ インストラクショナルデザインと多職種連携教育への活用.医学教育 ,45(3),183-192.
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