Last Updated on 2023年3月29日 by カメさん
こんにちは!未来予想などの最新技術の話題が大好きな看護師のカメさん(@49_kame)です。
今回は遠隔医療・テレナーシングについて解説したいと思います。
現在、遠隔診療は世界的なニーズの高まっています。遠隔医療の市場規模は2017年で215.6億ドルであり、2026年までに934.5億ドルまで拡大するとされています。
遠隔医療における看護は「テレナーシング」と呼ばれて注目を集めています。
ケアイノベーションを進めるためにも遠隔医療・テレナーシングを理解しましょう。
ケアイノベーションとは、テクノロジーを活用してケアの現場を大きく変えることだよ。
遠隔医療とは?
まずは遠隔医療の歴史や定義、分類、使用する機器等について解説させて頂きます。
定義や分類について長々書いています。読み飛ばしてテレナーシングについて知りたい方は、こちらをクリックしてください。
遠隔医療の歴史とは?
国内では1971年に遠隔医療が始まりましたが、直接対面しない遠隔診察・診療が医師法20条の無診察診療に抵触するのではとの懸念から25年ほど停滞しました。その後に厚生労働省から「遠隔医療は医師法20条に直ちに抵触するものではない」との通知が出されて、遠隔医療の推進が始まりました。
2005年に日本遠隔医療学会が発足し、徐々に遠隔医療が実践されるようになり、2014 年には厚生労働省が遠隔医療従事者研修事業を開始しています。そして2018年に厚労省からオンライン診療の手引きが発出され、遠隔医療関連の診療報酬(オンライン診療、在宅酸素療法・CPAP・心臓ペースメーカー遠隔モニタリング加算、オンライン医学管理料、オンライン在宅医学総合管理料など)が創設されました。
オンライン診療の手引きもコロナ禍で改訂されて、初診から全ての疾患にオンライン診療が可能になったよ。コロナが収束した後でどうなるかは注目ポイントだね。
遠隔医療の定義とは?
遠隔医療とは「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」
WHOにおいても「遠隔医療を、医師に加えて看護師や薬剤師などの非医師を含むヘルスケアに関わる専門家が、情報通信技術を活用して人々の健康を向上させるもの全般」という広い意味で定義づけが行われています。
遠隔医療に関わるサービスには遠隔診療、遠隔手術、遠隔モニタリング、遠隔介護・看護(テレナーシング)、遠隔教育、遠隔トレーニングなど多岐に渡ります。
遠隔医療の定義は広くて、テレナーシングは遠隔医療の中の1つだよ。
遠隔医療の目的とは?
遠隔医療は以下の目的を達成するために推進されています。
遠隔医療の目的とは?
- 「医療従事者(医師・看護師等)」と「介護関係者(ケアマネジャー・ヘルパー等)」「患者」の間で、必要な情報の伝達・提供・共有を、ネットワークを使用して迅速かつ円滑に行えるようにすること。
- ICT を活用することで、全ての地域における医療資源へのアクセ ス環境を改善し、隔たりのない医療・介護サービス環境を実現すること。
遠隔医療には分類がある?
遠隔医療は、医療従事者・介護関係者・患者の誰と誰が、情報の伝達・提 供・共有を行うかによって、大きく次の2つに分類されています。
遠隔医療の分類とは?
- 医療従事者間での遠隔医療
- 医療従事者と患者間での遠隔医療
医療従事者間での遠隔医療
D to D (Doctor to Doctor)
医師と医師の間で遠隔医療を実施するモデルです。
例えば、離島の医師が内地の大学病院の専門医に診療上の相談をするなど、医師間で診療支援等を行うモデ ルです。
D to N (Doctor to Nurse)
医師が情報通信機器を通して、看護師等の医療従事者を遠隔で支援・指導するモデルです
N to N (Nurse to Nurse)
看護師と看護師の間などの医師以外の医療従事者の間で支援や指導を行うモデルです
医療従事者と患者間での遠隔医療
D to P (Doctor to Patient)
医師と患者間でオンライン診療を実施するモデルです
例えば、テレ ビ電話を通して医師が在宅患者を診療するなど、遠隔地の患者に対して医師が映像やバイタルデータを基に診療や健康指導を行うモデルです。
N to P (Nurse to Patient):テレナーシング
医療従事者と患者間での遠隔医療として、看護師等が患者の日々のバイタルデータを遠隔でモニタリングし、患者の健康状態を管理したり、健康指導したりするものがあります。これはオンライン診療では無く、医学的な判断を必要としない遠隔健康医療相談と呼ばれています。
D to P with D (Doctor to Patient with Doctor)
患者が医師といる場合に、他の医師と行うオンライン診療です。
D to P with N (Doctor to Patient with Nurse)
患者が看護師等といる場合のオンライン診療モデルです。
D to P with N はオンライン診療時に、患者は看護師等が側にいる状態で診療を受け、看護師等が医師の指示の基に治療行為や検査を行うものです。
遠隔医療で使われる技術・機器
5G時代において遠隔医療に関わる周辺技術・機器について紹介します。
小型ポータブル化
遠隔診療での活用が期待されます。
訪問医や訪問看護師、施設看護師が患者の様子を撮影した4K接写カメラの映像を5Gを介することでリアルタイムに専門医と共有するなどの実証実験が行われている。
高精細映像
遠隔診療や遠隔トレーニングでの使用が期待されます。
医療現場に4K360度カメラを配置して、遠隔リアルタイムVR医療研修を行ったり、若手医師が治療する動画をリアルタイムに専門医が確認して指導するなどの実証実験が行われています。
コストや時間的負担の軽減ができる研修になって魅力的だね。
ロボティクス
遠隔手術での使用が期待されます。
数10Km離れた地点からの経皮的冠動脈インターベンションや、癌の外科的切除術等の実証実験が行われています。
生体情報センシング
遠隔モニタリングでの使用が期待されています。
介護施設の個室に複数の非接触型小型レーダーによって心拍や呼吸数、睡眠状況などのデータをAIにて分析し健康状態を把握する実証実験が行われています。
すでにウェアラブル機器着用の煩わしさを解消する方法も検討されているんだね。
Augmented Reality(AR)
遠隔教育での活用が期待されています。
介護施設の個室に複数の非接触型小型レーダーによって心拍や呼吸数、睡眠状況などのデータをAIにて分析し健康状態を把握する実証実験が行われています。CTやMRIにより得た画像データをAIを用いて、3Dホログラムイメージを作成して同時接続のARにてリアルタイムで共有する学習の実証実験が行われています。介護施設の個室に複数の非接触型小型レーダーによって心拍や呼吸数、睡眠状況などのデータをAIにて分析し健康状態を把握する実証実験が行われています。
Virtual Reality(VR)
遠隔介護・看護や遠隔トレーニングでの活用が期待されます。
介護施設の個室に複数の非接触型小型レーダーによって心上記のように医療現場を360度カメラで撮影した映像によるリアルタイムVR遠隔トレーニングや、対面リハビリを遠隔リハビリに置き換えて、患者とリハビリ指導者が仮想空間上でリハビリを行う実証実験が行われています。
テレナーシングとは?
それではここから、遠隔医療と看護について考えていきたいと思います。
遠隔医療における看護は、「テレナーシング」と呼ばれています。
テレナーシングの定義とは?
患者ケアを強化するために遠隔コミュニケーション技術を看護に利用すること
国際看護協会(ICN):2001
ICTを用いた遠隔コミュニケーションによる看護の方法
日本在宅ケア学会テレナーシングガイドライン:2021
遠隔医療と何が違うの?
遠隔医療は「テレヘルス」と呼ばれ、遠隔医療全般を表現しています。
国内においては、医師が行うTele-medicine をオンライン診療と呼び、看護職が行うものをTelenursing(and Telecare)と呼んでいます。
テレナーシングに関わる看護師をテレナースと呼んだりするよ。
テレナーシングとは具体的になに?
例えば患者さんに、タブレット端末、血圧計、パルスオキシメーター、体温計などの IoT 機器を使用して自宅にて測定してもらいます。そこで得られたデータを、看護師やAIが分析し、遠隔地より看護相談・保健指導を行うなどです。
亀井先生の考えるテレナーシング
テレナーシングに関する研究を行っている亀井智子先生(聖路加国際大学大学院看護学研究科 老年看護学 教授)はテレナーシングについて以下のように考えています。
テレナーシングとは、遠隔地からモニタリングを行う看護師(テレナース)が在宅療養者の心身の状態をもとに行う看護観察や遠隔コミュニケーションによる看護相談・保健指導の取り組みを指します。
テレナーシングの実践モデル
この図のように、「疾病予防を目的とする1次予防」と「基礎疾患の増悪回避を目的とする2次予防」、「終末期のケアを目的とする3次予防」に対して「療養者の状態に合わせた6領域の指標に基づく介入」を行います。
テレナーシングには種類がある?
テレナーシングには前述の遠隔医療と同様に「看護師、患者」の関係性により種類が分かれています。主な種類は3つです。
N to N (Nurse to Nurse)
例えば専門看護師や認定看護師が、一般ナースに対してコンサルテーションやカンファレンスを行うものです。
N to P (Nurse to Patient)
患者に対して行われるテレナーシングです。
TM based TN (Telemonitoring based Telenursing)
上記のN to Pに遠隔モニタリングを加えたものです。
テレナーシングのメリット・デメリットは?
メリット
- 利用者家族の通院時間や交通費の負担軽減に加えて、訪問看護や訪問診療のように人を自宅に迎え入れることへの負担がない。
- 外来受診の患者でも生活の様子を把握できることに加えて、利用者・家族とのコミュニケーションを中心とした看護が提供できる。
- モニタリングを併用することによって、病状変化をさらに詳細に把握することができる。
- 医師不足・医師偏在地域でもケアの提供が可能になる。
デメリット
- 自宅の通信環境の影響を受けるため、インターネット通信が良くない場所ではテレナーシングができない。
- 室内照明が暗い場合、利用者の顔がよく見えないため看護観察に制約が生じる。
- 身体診察ができないため、身体情報の把握に限界がある。
- 看護師と患者の両者にPCやタブレット端末などのデバイスが必要となるため機材コストがかかる。
- 現在はテレナーシングそのものへの診療報酬がない。
- 国内のテレナーシングに関する研究が少なく、エビデンス(科学的根拠)が少ない。
- 看護教育でテレナーシングを教えていないため、テレナーシングができる看護師が少ない。
テレナーシングの診療報酬の現状は?
2017年に中医協では「バイタルサインズなどのモニタリングや遠隔保健指導を行って重症化 を防ぐということの取り組みが有効だと示唆されているが、診療報酬に体系がない」として診療報酬の検討がされています。
そして2018年の診療報酬改定において「COPD在宅酸素療法への遠隔モニタリング加算」が創設されました。これは要件を満たした医師または看護師が実施可能となっています。
しかし、毎日テレナーシングを行っても月1回の算定です(月1回 150点のみの評価)。継続的なモニタリングに意義を見いだすテレナーシングでは採算が合いません。
そう考えると、月1回 150 点という点数は医療機関にとっては厳しい点数だね。
中医協とは?
中央社会保険医療協議会のことです。日本の健康保険制度や診療報酬の改定などについて審議する厚生労働相の諮問機関です。
テレナーシングの2つの要素
遠隔モニタリング
遠隔モニタリングとは「在宅療養者の心身状態を諸データをもとに専門職が見守る。そして正常範囲を逸脱していないか、療養者の心身に課題が生じていないか、well-beingな状態であるかを判断すること。」とされています。
つまり療養者の心身状態の変化を早期にとらえる機能だよ。
高齢者の場合は、体調が少し悪くても「様子を見る」と言う方が多いです。しかし、増悪徴候を見過ごすことで、死に至る場合もあります。
遠隔モニタリングにおいて、何気ない言動とモニタリングデータから些細な変化を見逃さないことが重要となります。
遠隔コミュニケーション
遠隔コミュニケーションでは、非言語的コミュニケーションが直接の対面以上に大切となります。看護師の表情・身ぶりにより伝わり方も異なります。
また利用者の表情や、肩呼吸、胸鎖乳突筋の使用などの情報から呼吸困難感を判断するといった能力も求められます。
遠隔通信機器は通信が途切れたり、遅延が生じたりすることもあります。そのため療養者との会話に齟齬が起こりやすく、細かな表情やニュアンスが伝わらない場合があるため注意が必要です。
テレナーシングでは、バイタル測定をするのも、受診を決断するのも利用者だよ。だから利用者の理解を得るためのコミュニケーション能力が鍵となるよ。
テレナーシングを普及させるためには?
テレナーシングなどのテクノロジーを生かしたケアを多くの人々に届けるためには、エビデンスの蓄積と診療報酬化、教育が重要になります。
エビデンスが蓄積されることにより、厚労省が必要性を認めて診療報酬化が進んで多くの加算点数が着くようになります。つまり健康保険制度化が進むことでテレナーシングを受けられる人が増えていきます。
そして教育体制の整備です。遠隔医療が身近となり診療報酬の改定も進んでいます。看護学生への基礎教育や、看護師への現任教育により、テクノロジーを使い込なす人材の育成が必要となります。
テレナーシングに関する研究を紹介
参考としてテレナーシングの研究の一部を紹介します。
COPD 在宅酸素療法実施者への在宅モニタリングに基づくテレナーシング実践の急性増悪および再入院予防効果―ランダム化比較試験による看護技術評価―
この研究は前述の亀井先生の研究で、COPD HOT 実施者を対象として、在宅モニタリングに基づくテレナーシング(TN)を 3ヵ月間提供して効果を検証した研究です。結果としてCOPD HOT 実施者の急性増悪発症予防および発症回数を低下させる可能性が示唆されました。
肺がん高齢者を対象とした在宅モニタリングに基づくテレナーシングの実践と混合研究法による評価:症状の特徴と本人の経験に焦点を当てて
これは肺がん患者に対して在宅モニタリングに基づくテレナーシングを実施した研究です。TN が専門職とつながる場を提供できたこと等により心理的な安心感を与えることができたとの結果を報告しています。またTNでポジティブフィードバックを行うことで体調管理への意欲向上に影響する可能性も議論しています。
このようにエビデンスが蓄積されることが、未来のテレナーシングの発展に繋がるね。
まとめ
医療ニーズの高まりにより、遠隔医療に市場規模は拡大しており、通信技術の発展に伴って今後も拡大していくことが予想されます。その状況の中で、看護師として何ができるかを考える必要があります。
オンライン診療の補助やテレナーシング。看護師として出来ることはたくさんあります。エビデンスの蓄積に努めるとともに、本格的にテレナーシングが導入された際に使いこなせるような準備をしておきましょう。
遠隔診療やテレナーシングにおける思考は、普段の看護と変わらない
遠隔診療やテレナーシングにおいても、情報の正しい把握・客観的な判断・臨床推論・状況判断・クリティカルシンキングが求められます。超高速通信やAIなどのテクノロジーと看護師の力を掛け合わせることが重要です。
おすすめ記事
転職先を探しているけど「なんだか面倒くさいなー」と感じている方は下記の記事を参照してください。
【転職先を探してみたいけど、面倒くさがりな看護師へ】とりあえず、ジョブメドレーで転職先を検索してみよう
看護師としてキャリアップを検討している方は下記の記事を参照してください。
【キャリアップのための看護師転職】格安キャリアコーチングと無料転職サイトを利用した転職術「coachee × ジョブメドレー」
看護系大学院に興味がある方は下記の記事を参照してください。
【看護系大学院への進学手順は?】大学院進学の一歩を踏み出そう!
コメント