Last Updated on 2023年12月28日 by カメさん
こんにちは!看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は5分程度で読めます。
今回は天井効果と床効果について解説するよ。
天井効果・床効果は、論文を読む際にも自分が研究をする際にも重要になるので理解しておきましょう。
天井効果と床効果とは?
「天井効果」と「床面効果」とは、評価尺度(5段階のアンケート調査など)を用いた調査の際に、測定値が上限(天井)もしくは下限(床)に偏ってしまっている状態のことです。
測定値の上限に偏ってしまっている場合には「天井効果がある」と言われ、反対に測定値の下限に偏ってしまっている場合は「床効果がある」と言われます。
上限に偏るというのは、1点〜5点のアンケートで5点の回答ばかりになることだよ。
それでは、天井効果と床効果についてそれぞれ詳しく解説していきます。
天井効果とは?
天井効果は英語でCeiling Effectと呼ばれます。
天井効果は簡単に言うと、データの分布が測定値の上限に偏っていることです。
データの分布とは?
データの分布とは、データの散らばり具合のことで、ヒストグラムで表現されます。データの分布は通常であれば正規分布となっています。正規分布とは中ぐらいの測定値の人数が最も多いデータです。
下記が正規分布の場合のヒストグラムです。
データの分布や、正規分布について詳しく知りたい方は下記の記事を参照してください。
天井効果の状態では、データの分布の中心が測定値の最大値の方に偏っています。
例えば、5件法によるアンケートで下記のヒストグラムのように、回答者のほとんどが5(測定値の最大値)の場合は天井効果がある状態です。
床効果とは?
床効果は英語でFloor Effectと呼ばれます。
床効果は簡単に言うと、データの分布が測定値の下限(例えば0点)に偏っている状態のことです。
床効果の状態では、データの分布の中心が測定値の最小値の方に偏っています。
例えば、5件法によるアンケートで下記のヒストグラムのように、回答のほとんどが1(測定値の最大値)の場合は床効果がある状態です。
テストで出題した問題が難しい問題を出しすぎて、みんなの点数が0点だった時も床効果が出ている状態だよ。
天井効果や床効果があって悪いことは?
天井効果や床効果が出ている時は、あなたが測定したいデータを正確に取ることができていません。
なぜなら対象者達は、本当は上限以上もしくは下限以下の得点かもしれないからです。
このような時はアンケートやテストの内容が、対象者達の能力や状況に適合していないよ
また、天井効果や床効果がある時は、皆が同じ得点になってしまいますので個人間や条件間の差異(違い)を評価することができなくなります。
質問紙調査では、ある特徴を持つ人ともたない人を分ける力(弁別力)の高い質問項目が重要です。天井効果や床効果が出ている質問項目は、弁別力の低い質問項目なので、妥当な質問項目とは言えません。
また因果関係(原因→結果)を明らかにする研究においても、本当の原因が何かが分からなくなります(独立変数の効果が無くなる)。独立変数や従属変数について詳しく知りたい方は【独立変数(説明変数)・従属変数(目的変数)】看護研究入門「論文の因果関係を理解しよう」を参照してください。
天井効果や床効果はどうやって評価するの?
天井効果と床効果は、その項目の平均値と標準偏差を使って評価します。
天井効果や床効果は、アンケートの各質問項目や、テストの各設問毎に評価するよ。
その項目のデータの平均値から、標準偏差を足したり・引いたりした際に、通常ではありえない数値となった場合に「天井効果がある」または「床効果がある」と判断します。
天井効果の評価とは?
天井効果は、平均値+1SD(標準偏差)で評価します。
平均値に1標準偏差を足した値が、最大値(5件法のアンケートの場合は5、100点満点のテストであれば100点)を超える場合は「天井効果がある」と判断されます。
データの分布が最大値の方に歪んでいる状態だよ
100点満点のテストの場合
100点満点のテストを50人に実施した時に、平均点が95点、標準偏差が±15点だったとします。上記の計算方法に当てはめると、平均値+1標準偏差=95点+15点=110点となります。100点満点のテストなので、110点は上限を超えているため「天井効果がある」と判断します。
5点満点のアンケート調査の場合
また5件法のアンケートを50人に実施し、ある項目の平均値が4.5点、標準偏差が0.9点だったとします。その場合は、平均値+1標準偏差=4.5点+0.9点=5.4点となり、測定値が取りうる上限(5点)を超えるため、「天井効果がある」と判断します。
床効果の評価とは?
床効果の評価は、天井効果の評価とほとんど同じです。
床効果は、平均値ー1SD(標準偏差)で評価します。
平均値から1標準偏差を引いた値が、最小値(5件法のアンケートの場合は1、100点満点のテストであれば0点)を下回る場合は「床効果がある」と判断されます。
データの分布が最小値の方に歪んでいる状態だよ
100点満点のテストの場合
100点満点のテストを50人に実施した時に、平均点が10点、標準偏差が±15点だったとします。上記の計算方法に当てはめると、平均値-1標準偏差=10点-15点=-5点となります。100点満点のテストなので、-5点は下限を下回るため「床効果がある」と判断します。
5点満点のテストの場合
また5件法のアンケートを50人に実施し、ある項目の平均値が1.5点、標準偏差が0.9点だったとします。その場合は、平均値-1標準偏差=1.5点-0.9点=0.6点となり、測定値が取りうる下限を下回るため、「床効果がある」と判断します。
天井効果・床効果の予防方法は?
それでは、天井効果・床効果の予防方法について解説します。
1番の予防方法は予備調査(プレテスト)を行うことです。予備調査を行った結果を評価し天井効果や床効果が出ている項目を確認します。そして項目を修正した上で本調査を行うことで、天井効果や床効果を防ぐことができます。
まずは予備調査の結果から、天井効果や床効果が懸念される(高得点や低得点の回答者が多いなど)項目のデータの分布を確認しましょう。
その項目のデータの分布に天井効果や床効果を認めた場合は、本調査でも同様の結果となる可能性があります。そのため、「項目を削除する」「項目の質問内容を変更する」「選択肢を増やす」「テストの難易度を変更する」などの修正を加えましょう。
例えば「コミュニケーションが得意だ」という質問項目が低得点になりやすいから「コミュニケーションに課題を感じている」と言う質問項目に変えてみたりするよ。この時は、自分が知りたい内容からずれてしまわないように注意しよう。
既存の尺度でアンケートを行う場合はどうすれば良いの?
看護師のアンケート調査では既存の尺度を使用する場合が多くあります。その際に天井効果や床効果が出た場合は、それが集団の特徴である可能性があります。既存尺度を使用する場合は、天井効果や床効果を加味した上で結果を分析しましょう。
尺度によってはデータの分布が偏ることを許容して作成している尺度もあるよ。
本調査で天井効果や床効果が出てしまったら?
本調査で天井効果や床効果が出てしまった場合は、天井効果・床効果が出た項目を削除して分析を行います。もしくは代表値を平均値から中央値に変更し、分析方法もノンパラメトリックな分析方法に変更します。
パラメトリックやノンパラメトリックについて知りたい方は【正規分布・パラメトリック法とは?】看護研究の疑問を解決「データの分布を理解しよう」を参照してください。
本調査で天井効果や床効果が出ることは十分に予測されるため、事前に天井効果床効果があったらどうするかを検討しておくことも重要だね。
実際の論文を見てみよう
下記の論文では、結果の表の中に天井効果と床効果を記載しています。
この論文は尺度開発の研究で、新しい尺度の質問項目を選定する基準の1つとして天井効果と床効果を評価しています。
選定基準に当てはまらない項目を削除しているよ。
下記が結果の表です。尺度の質問項目毎に天井効果と床効果(フロア効果)を記載しています。
この論文で開発している尺度は4段階評価です。上記結果に記載の質問項目は、どれもMean(平均値)+SD(標準偏差)が4(最大値)を上回っているため「天井効果がある」と判断します。この中でも、天井効果があり、かつ回答分布に偏りのあった「朝食管理の行動」「朝食管理の目標」の2項目が削除されています。
天井効果があるから、必ずしも項目を削除するわけではないんだね。
まとめ
天井効果や床効果とは、取得したデータの分布が上限もしくは下限に偏る(歪む)ことです。すべての項目を計算して確認するのは大変ですが、明らかに回答が偏っている項目は必ず確認しましょう。
データの偏りは、考察で重要な要素になるかもしれないよ
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