Last Updated on 2022年11月25日 by カメさん
こんにちは!救命センターで働く看護師のカメさん(@49_kame)です。
この記事は10分程度で読めます
今回はプレホスピタル(病院前診療)について解説するよ。
病院前診療にはドクターカーやドクターヘリなどの手段があります。今回は、どちらにも共通するポイントについて解説します。
病院前診療の「意義」
病院前診療の意義として以下の3つが挙げられます。
病院前診療において、上記3つが適切に行われることが救命のために重要です。
病院前で活動する場合は、常に上記の3つを念頭に置いて行動しよう!
病院前診療の流れ
病院前診療の基本的な流れを以下の図で示します。
病院前診療は早期の医療介入を目指していますが、何よりも重要なことは早期の根本治療に繋げることです。
ドクターヘリやドクターカーの要請方法は2通り(「覚知要請」と「現場要請」)
ドクターヘリやドクターカーの出動要請には2通りのパターンがあります。
「覚知要請」
覚知要請とは、119番通報の内容によって救急車の出動要請と同じタイミングで消防司令よりドクターカー・ドクターヘリが要請されます。
覚知要請では、現場の状況が分からないため「キーワード(高エネルギー外傷、胸痛・冷汗、気道緊急、救出に時間を要する、多数傷病者など)」が設定されています。キーワードに合った119番通報の場合、ドクターカーやドクタヘリが要請されます。
「現場要請」
救急隊が患者さんと接触し、評価を行った上で、ドクターカーやドクターヘリを要請します。特定のキーワードは設定されていませんが、重症外傷や重症熱傷、目撃ありCPAなどで要請されることが多いです。
病院前診療の5つのポイント
病院前診療では、当然ですが病院内と異なる環境で診療を行います。病院前診療に特有のポイントを以下の5つにまとめました。
➀限られた時間
病院前診療における1つ目のポイントは、「時間」です。
病院前診療にて使用できる時間には限りがあります。ドクターヘリの場合は現場での医療行為に使える時間は10-15分程度と言われています。またDrCarであっても現場を出発して病院に到着するまでの15-20分程度が医療行為に費やすことができる時間です。
また、10-15分の中では治療の優先順位を付ける必要があります。病院前診療の限られた時間では、以下のような治療が優先して行われます。
現場で必要な医療行為を判断し、必要最小限の治療で適切な医療機関に搬送することが重要です。迅速な搬送により根本治療までの時間を短縮しましょう。
total prehospital timeを短縮しよう!
②限られた情報
病院前診療における2つ目のポイントは、「情報」です。
少ない情報で行動しなければいけない
病院前診療では出動時に情報が無いことがほとんどです。例えば「60代の目撃ありCPA」や、「自転車と歩行者の交通外傷」などの少ない情報で出動します。
そのため医療スタッフは、少ない情報で持ち出し機材や服装(院外活動用のブーツなど)を検討します。
また現場に向かうまでの間に、医師・看護師は患者の状態を想定して可能性のある処置や、現場での役割分担を検討します。
ドクターカーの場合は現場に向かう途中で救急隊から連絡が来るよ
プレホスピタルで活動する医療者は「情報収集・発信」の役割を持つ
現場で収集して医療機関に伝える情報には以下のような情報があります。
ハイリスクと判断される患者は、現場で軽症でも高次医療機関への搬送が検討されるよ
情報収集をする際はAMPLEを活用しよう!
AMPLEとは、Allergy, Medication, Past history & Pregnancy, Last meal, Events & Environmentの略で、診察時に系統的に情報収集を行う方法です。
本人・家族もしくは救急隊の引き継ぎから情報を収集しましょう。
家族に薬を確認する際は、サラサラ系の薬飲んでますか?心臓の薬飲んでますか?などわかりやすい聞き方を心がけよう。
③特殊な空間
病院前診療における2つ目のポイントは、「空間」です。
車内・機内での活動
ドクターカーやドクターヘリはとても狭く、行動できるスペースが限られています。
ドクターカーの場合は車内の進行方向右側に患者のストレッチャーがあり、患者の右側より治療を行います。そのため左側への静脈路確保や胸腔ドレナージ等の難易度が高くなります。また、役割分担によりスタッフの配置も検討する必要があります。
基本的には気道管理を行う医師が頭側、EFAST等を行う医師が真ん中、静脈路確保や物品準備を行う看護師が足側などです。また、処置によって流動的に乗車位置を変更することも重要です(シース挿入のため医師が足側に来るなど)。
物品も簡単には移動できないから、挿管のセットは事前に気道管理の医師に渡しておくなどの工夫が必要だよ。
現場での活動
病院前診療では、救急車内だけではなく現場での初期診療が必要となることがあります。特にドクターヘリにおいては機内での治療が制限されるため現場活動が重要となります。
現場は交通量の多い道路であったり、電車の線路内ということもあります。現場では消防の指揮官の指示に従い行動しましょう。
また、閉じ込められた車内や工事現場などで静脈路確保や気管挿管を行うこともあります。
現場活動が想定される場合は、自らの安全を守るためにも適切な服装(ツナギやブーツなど)で出動することも大事なポイントだよ。
④限られた人員・医療資源
病院前診療における4つ目のポイントは、「人員・医療資源」です。
限られた人員
人員は施設により異なりますが例えば、ドクターヘリでは医師1名看護師1名、ドクターカーでは医師2名看護師1名などです。
少数のスタッフにて現場に向かうため、事前の役割分担が重要となります。また、現場での消防や警察との協力が欠かせません。
限られた医療資源
病院前診療では、基本的には病院から持参した物品、ドクターヘリ内にある物品、救急隊が所持する物品で治療を行う必要があります。
病院から持って行くものとしては、以下のようなものがあります。
またドクターヘリ内にある物品は以下のようなものがあります。
ドクターカーで出動した場合は救急車内で治療を行います。救急車内には以下のような物品があります。
上記のように限られた医療資源を活用して初期診療を行います。
現場に向かうまでのブリーフィングで役割分担と想定される処置、必要な物品・薬剤を確認しよう!
⑤搬送医療機関の選定
病院前診療における5つ目のポイントは、「搬送医療機関の選定」です。
病院前診療では、全ての患者を自分の施設に搬送するわけではありません。初期診療の結果を踏まえて、搬送先の医療機関を選定します。
医療機関選定の際はオーバートリアージが重要となります。
オーバートリアージ?アンダートリアージ?
アンダートリアージとは、「本来であれば高次医療機関の救命センターに搬送すべき重症外傷を近隣の二次医療機関に搬送してしまう場合」などです。つまり、現実よりも軽い病状の評価を行い判断を間違えてしまうことがアンダートリアージです。
オーバートリアージは、その反対です。つまり、現実よりも重い病状の評価を行うことがオーバートリアージです。
アンダートリアージが起こると、適切な評価や蘇生が行われない可能性があります。結果として根本的治療が遅れ、防ぎ得た外傷死(preventable death)が発生します。
防ぎえた外傷死を起こさないためには、受傷機転などから重症外傷の可能性を予想して高次医療機関に搬送するなどのオーバートリアージが求められます。
救命センターへの搬送が望ましい場合は?
救命センターへの搬送が望ましい場合は、下記のような生命の危険がある可能性が高い症例です。
根本治療までの時間短縮が優先される場合は、早期に救命センターに搬送が必要になるよ
適切な医療機関の選定には、現場での重症度評価が鍵となります。重症度評価には、下記で解説しているABCDEアプローチを活用しましょう。
多数傷病者の場合は?
複数の患者が発生した場合は、重症度だけではなく緊急度も判断する必要があります。
緊急度の低い患者については近隣病院で初期評価を依頼したり、救命困難な心肺停止の死亡確認を近隣病院に依頼する場合もあります。
病院前診療の評価と治療(ABCDEアプローチの観点から)
ABCDEアプローチとは、外傷患者の生理学的徴候を迅速に把握して蘇生を行う診療のアプローチです。
基本的には外傷診療のPrimary surveyの際に活用しますが、外傷以外の患者にもABCDEアプローチは活用されており、様々な患者の生理学的兆候を評価することができます。
そのため、病院前診療においてもABCDEアプローチは有用な評価方法です。
今回はABCDEアプローチの観点から、病院前診療について(特に外傷患者に焦点を当てて)解説していくよ。
A: Airway 「気道」
気道の評価は、病院内と同様に「見て・聴いて・感じて」で評価し、気道狭窄の懸念があれば気管挿管を行います。
気管挿管は侵襲的な処置です。気管挿管に伴うバイタルサイン変動のリスクを念頭に置いて行動しましょう。病院前診療では、最低限の処置にてバイタルサインの変動による急変のリスクを抑えることも重要です。
また、顔面外傷による口腔内の出血のように気管挿管が困難な場合は観血的な気道確保を行うこともあります。
用手的な気道確保で換気が良好で、根本治療までの時間を短縮したい場合は、気管挿管を行わないこともあるよ。
不穏な患者の鎮静に注意
不穏な患者で安静が保持できない場合は鎮静し挿管した上で搬送します。しかし不穏の原因がショックに伴う循環不全の場合は、鎮静薬の投与により病状が悪化する可能性もあるので頭に入れておきましょう。
ショックに関しては下記の記事で詳しく解説しています。興味のあるかたは参照してください。
看護のポイント
ドクターカーの車内は狭いので、頭側の挿管の介助を救急隊の方に依頼することが多くあります。しかし外傷患者の場合は観血的な気道確保となることもあるので、すぐに対応できるようにしましょう。
また、時間とともに状況が変化する救急の現場では、患者の状態と治療の状況を把握することが重要となります。例えば外傷性CPAの場合ではABCに沿って蘇生を行っていきます。「今の患者の状態はどうか、蘇生が成功したか、蘇生できていないのであれば、次の治療はなにか」など常に状況の把握に努めましょう。
B : Breathing「呼吸」
気道と同様に、呼吸も「見て、聴いて、感じて」で評価します。
病院内と異なるところはX線が使用できないところです。そのため皮下気腫や、胸郭の動きなどの身体所見やバイタルサイン、患者の訴え、表情、ポータブル超音波によるEFASTにより気胸や血胸の判断を行います。
呼吸の評価にて緊張性気胸が疑われる場合は、緊急の脱気による胸腔の開放・ドレナージが必要となります。また、胸腔のドレナージにて大量の血胸を認めた場合は緊急開胸術による止血へと移行する可能性があります。
看護のポイント
外傷の場合は早期の胸部の診察、それに引き続く処置が予測されます。そのため救急車内に移動後は救急隊の方と協力して体幹部の脱衣を早急に行いましょう。
C : Circulation「循環」
循環の評価で重要なことはショックを早期に認知することです。
病院内と異なる点は、呼吸と同様にx線による評価が行えないところです。そのため、皮膚所見、意識の変調、頻脈、頻呼吸、低血圧等の身体所見やバイタルサイン、ポータブル超音波装置の使用により、出血源や心タンポナーデの有無、緊張性気胸の有無、骨盤骨折の可能性を評価します。
外出血の止血
接触時に、活動性の外出血を認める場合は圧迫止血やターニケットによる止血を試みます。
輸液療法
出血性ショックの場合は輸液を行い、初期輸液療法への反応により患者の状態を判断します。しかし、病院前診療における急速輸液は生命予後を悪化させるとの指摘もあり、止血術完了までは不要な大量輸液を避けることが推奨(permissive hypotension)されているため注意してください。
初期輸液への反応による分類とは?
外傷初期診療ガイドライン(JATEC)では、出血性ショックに対する初期輸液療法によりvital signが安定し輸液速度を維持量に落としてもショック症状の発現のない場合をresponderと呼びます。
また初期輸液療法に反応し循環が安定ても、輸液速度を落とすと再び循環が悪化してしまう場合をtransient-responderと呼びます。
さらに初期輸液療法で循環が安定しない場合をnon-responderと呼びます。
トラネキサム酸の投与
出血性ショックに対しては受傷後3時間以内のトラネキサム酸投与が患者の転帰に繋がることが報告されています。
そのため出血性ショックが疑われる場合は、病院前診療においてトラネキサム酸を投与することが推奨されています。
サムスリングによる固定
骨盤骨折における静脈性および骨折部からの出血に対しては、サムスリングを使用した整復によりタンポナーデ効果が期待できます。
動脈性の出血の場合はタンポナーデ効果が十分に作用しないから、早く病院に戻って動脈塞栓術が必要だよ。
その他の処置
その他の処置としては、緊張性気胸の解除も循環に関わる処置として行われます。また切迫心停止となった場合は病院前診療においても緊急開胸術が行われることもあります。
開胸術の目的は?
緊急開胸術は以下のような目的で行われます。
- 心タンポナーデの解除(心膜切開)
- 心マッサージ、下行大動脈遮断
- 心臓、肺、大血管からの出血のコントロール
看護のポイント
病院到着後の治療を予測することが重要です。
例えば、病院到着後に初療室を経由せずに直接CTを撮影する方針であれば、救急車内でルートの整理や金属類の除去を行い速やかにCT撮影を行うことが出来る環境を整える必要があります。
また、緊急輸血やREBOA、開胸・開腹、TAEなど病院到着後に行われるであろう治療を予測して、ルートの整理や衣服の裁断等を行いましょう。
病院前診療では出来る処置が限られてるよ。とにかく根本治療までの時間短縮を目標に行動しよう。
D : Disability of CNS(意識)
意識レベル、瞳孔所見、麻痺の有無を確認することにより、迅速に意識の評価を行います。四肢の麻痺や知覚障害を確認する際に、頭蓋内疾患だけでなく脊髄損傷も同時に評価しましょう。
また、外傷に先行する内因性疾患が疑われる場合もあります。そのような場合は血糖測定にて低血糖を否定することもあります。
頭部外傷に関しては院外で出来る処置がほとんどありません。とにかく早期搬送を心がけ、根本治療までの時間を短縮しましょう。
嘔吐の危険がある際に制吐薬を投与するなどの対症療法を行うことはあるよ。
看護のポイント
搬送中に急激に意識レベルが低下することもあります。定期的に声掛けを行い意識レベルを評価しましょう。声を掛けることは患者さんの安心にも繋がるため、とても重要です。
E : Exposure and Environmental control「脱衣と体温管理」
活動性出血や開放創・開放骨折を観察するために着衣を裁断します。またEFASTや緊急脱気や開胸を速やかに行うためにも、早急に体幹部の脱衣を行いましょう。
体温に関わる疾患には熱中症や低体温があります。熱中症の場合は冷却輸液を使用するなどできる限り冷却に努めます。また低体温の場合は毛布などにより適度な保温に努めましょう。外傷において低体温は死の三徴候の一つなので、特に保温を心掛けましょう。
交通外傷でオイルにより着衣が汚染されている場合は引火の危険性もあるため脱衣してから搬送する必要があるよ。
外傷死の3徴候とは?
外傷死の3徴候とは、外傷において予後不良の原因となる「低体温、代謝性アシドーシス、凝固障害」のことです。これら3つの因子は相互に関係しています。
これらが出現した場合は、外科的治療においては止血と汚染回避に徹したダメージコントロール手術(DCS)が選択されます。
死の3徴候が生じている状態で、大規模な根治的手術の侵襲が加わると、患者にとって致死的となりかねないよ。
看護のポイント
病院に戻ってからすぐに診療に移ることができるように、衣服を全て裁断することがベストです。全身の創傷を観察するためにも衣服は全て裁断しましょう。
余裕が無かったら体幹部と開放創は必ず裁断しよう。また、意識のある患者さんの場合は必ず衣服を裁断する同意を取ろう!
脱衣と保温に関しては診療だけでなくプライバシーの保護にも関わります。特に屋外での脱衣時などは、人払いやパーテーションの使用などの配慮も忘れないようにしましょう。
まとめ
病院前診療では、限られた人員・物資・時間・情報で行動する必要があります。
そのためには医師・看護師・救命士・消防・警察などと協力することが必須です。また、病院前診療に関わるもの全員が早期医療介入・根本治療への時間短縮という目標に向かって行動することが重要です。
また病院前診療においてもABCDEアプローチが重要です。病院内と同様に、系統的な評価・蘇生を行いましょう!
参考・引用文献
- 症例から考える重症外傷診療 あなたならどうする. 救急医学,2020年9月号,第44巻10号,へるす出版.
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